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なぜ『ドラえもん』はアメリカでは人気がないのか?
市民講座で大人気の哲学講師が教える「子育ての哲学」

低成長・人口減の黄昏日本。孤独が当たり前になっていく時代に 幸せに生きるヒントを教える人気哲学講師・加藤博子氏の初著作刊行。

『ドラえもん』を受容する国の共通点とは?

『ドラえもん』を受容する国々に共通する特徴のひとつとして考えられるのが、親が子どもに添い寝をする習慣があるかどうかという点ではないかと思うのです。

 幾つかの国々の映画を見ていると、就寝時の親子のシーンに二種類のパターンがあることに気づきます。まず一つは、親子が一つの部屋で川の字になって寝ていたり、子どもと親が同じ布団に入って語り合いながら寝入るというパターンです。このように添い寝をして子どもを寝かしつける習慣は、古くから日本でもそうであったゆえに気づきにくいのですが、それとは違う国々から見ると、異様な風景に見えるらしいのです。

 それとは違う在り方とは、アメリカ映画などに典型的に見られるように、親子は別室に寝る習慣です。子どもはベッドにひとりで眠り、そのベッドは親とは別の部屋にある。おやすみなさいを言って、親子は別れる。そういう習慣で成長した者にとっては、多くのアジアの国々や日本のように親子が同室で眠るというのは、ひどく気持ち悪く感じられると、ドイツ人から聞いたことがあります。

 かつて山口百恵(一九五九~)は、オウム事件に関して意見を求められ、オウム真理教の信者たちの多くは、産院で保育器に移され、母親と離される体験をもった最初の日本人たちであることを指摘しました。

「それまでは、添い寝がいい、母乳がいい、と言われていたのが、欧米に見られる接触の仕方に変わったのが、ちょうど私たちの頃からなんです」(『婦人公論』一九九五年七月号)

 これは、赤ん坊をぎゅうっと抱きしめて育てることが良いはずだと感じている人の言葉です。心から安らいで抱っこされた体験のある子が、後の人生で幸せになれるのか、あるいはそんな甘えを断ち切るところから、自立した人間が育成されるのか、これはどちらが正解という問題ではなく、文化や習俗に立脚した違いです。どちらにせよ、親子が触れ合うときに心に広がる安らぎと甘えを、いかに配分するか、それが人間形成に大きく影響すると考えられていることは確かなようです。

 触覚は身体の内にもあり、動きの感受でもあります。だとすると、内なるざわめきとして感受される妊婦の胎動もまた、母と子の双方にとって大切な感覚でしょう。試験管を経た命の誕生という、現代から未来に向けての出産の在り方に、温もりを欠いた印象を抱くのは、触れ合うことの、その代替の利かない貴重さが踏みにじられる気がするからかもしれません。

【著者プロフィール】

加藤博子(かとう ひろこ)

1958年生まれ。新潟県出身。文学博士(名古屋大学)。専門はドイツ・ロマン派の思想。大学教員を経て、現在は幾つかの大学で非常勤講師として、美学、文学を教えている。また各地のカルチャーセンターで一般向けにやさしい哲学講座を開催し、特に高齢の方々に、さまざまな想いを言葉にする快感を伝えている。閉じられた空間で、くつろいで気持ちを解きほぐすことのできる、「こころの温泉」として人気が高い。さらに最近は「知の訪問介護」と称して各家庭や御近所に出向き、文学や歴史、哲学などを講じて、日常を離れた会話の楽しさを提供している。本書は初の著作。

 

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