「ちくわぶとはんぺん」新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【28品目】
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」28品目
そして、私にとってもうひとつの謎食材であるはんぺん。これまた『おれは鉄兵』で見たのが最初だった(私は大抵の知識をマンガから得ている)。前述のシーンの続きで、おっさんくさい級友がコンニャクのようなものを「モグモグモグ‥‥」と食べている。そののんびりした様子を見かねた鉄兵が言う。「あのね おっちゃん よけいなこというようだけどさ‥‥ハンペンなんてそんなカミカミしなくてもいいの」。なるほど、はんぺんってのはやわらかいんだな、という情報がそのときインプットされた。
初めて食べたのは、やはり東京のおでん屋だ。出汁を吸ってふくらんだ三角形の白いやつ。これがはんぺんか、と思いながら食べてみたら、ちくわぶとは逆にふわーっとして歯応えがない。やわらかいものとは思っていたが、ここまでとは……。魚のすり身が原料なのでそれなりに味はあるものの、あまりにふわっとしていて食べた気がしない。どうにも“存在の耐えられない軽さ”を感じたのだった。
ちくわぶは初体験以来、今のところ食べていない。一方はんぺんは、チーズとかをはさんで焼いたやつなら食べたことがあり、それは酒のつまみとして悪くないと思った。まあ、いずれにせよ個人の好みの問題ではあるのだが、ちくわぶ、はんぺんと似た感じであまり積極的に食べたいと思わないのが、ういろう、ババロア、マシュマロなど。どうやら自分は曖昧な食感が好きじゃないらしい。
だからといって、それらを否定する気は毛頭ない。ちくわぶやはんぺんは個人の好き嫌いだけでなく地域差も関わってくるが、そういう多様性は大切だ。日本全国どこも同じでは面白くない。私が「ちくわぶ意味わからん」と言うのも、半分は本音だが半分は大阪出身者としてのお約束ネタみたいなところもある。それに対してK美さんのような東京出身者が「あのおいしさがわからないなんて!」と反論するところまでがセットの様式美。もしそこで本気でディスったり怒り出したりする人がいたら、それこそ不粋というものだろう。
文:新保信長
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