「『何をかけるか』問題」新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【26品目】
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」26品目
ところが先日、近所に新しくできた昭和レトロな演出の食堂でメンチカツ定食を頼んだら、オーロラソースがどぼどぼにかかった状態で出てきて、一瞬我が目を疑った。全体にたっぷり盛られたソースで衣がまったく見えず、もはやカツだか何だかわからない。ケチャップとマヨネーズを合体させたオーロラソースは主張が強い。これだけかかっていると、食べてもほぼソースの味しかしない。熱烈なオーロラソースファンのニーズに応えたのかもしれないが、ファンならぬ身にはいささか厳しいものがある。
その数日後、知人の食いしん坊デザイナーに教えてもらった定食屋に初めて入った。人気店らしく、行列する人向けの注意書きが貼り出されていたが、ランチタイムのピークは過ぎていたので幸い並ばずに入店。サバ味噌とかがあれば食べたかったが、刺身定食はあれども煮魚はナシ。豚生姜焼きと迷ったあげく、アジフライ定食をごはん少なめで注文した。
出てきたアジフライは、よそではあまり見たことないぐらい大ぶりで肉厚なのが1枚。アジフライ定食は2枚セットで出てくる店が多いけど、これなら1枚で十分だ。そこに玉子たっぷりで黄色味の強いタルタルソース、千切りキャベツとマカロニサラダにくし切りレモンが添えられていた。そのビジュアルだけで“当たり”感はあったが、そこで配膳のおねえさんが「ソースかしょうゆ、お使いになりますか?」と聞く。とっさに「あ、じゃあソースで」と答えると、中濃ソースの入った陶器のしょうゆ差しというかソース差し(?)を持ってきてくれた。そうやって希望を聞いてくれるのはありがたい。
ソース、タルタル、レモンを自在に駆使して食べたアジフライはうまかった。やはり、調味料は自分の采配でかけたいものだ。が、考えてみれば、最初からソースとしょうゆを一緒に出してくれればいいのでは、という気もしなくはない。もっと言えば、ポン酢とかラー油とかマスタードとか柚子胡椒とかタバスコとか、いろいろ置いてあるといい。スペースや経費などの面で難しいとは思うけど、そんな調味料選び放題の店があったら行ってみたい。ふだんはかけない調味料をちょっと試してみるのも外食ならではの楽しみのひとつ。意外な発見があるかもしれない。
文:新保信長