「開幕前の至福の宴」新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【25品目】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「開幕前の至福の宴」新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【25品目】

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」25品目

 さて、宴もたけなわというところで参加者に回すのが「勝ち星予想表」である。今シーズン、誰が何勝するかを各人が予想して書き込む。今年であれば、青柳18勝、伊藤将15勝、西勇12勝、西純10勝、岩貞10勝、才木9勝、秋山8勝、及川5勝、森木3勝、村上2勝、リリーフ陣6勝で合計98勝……おお、ぶっちぎりで優勝してしまう! という“取らぬ狸の皮算用”をみんなでやるわけだ。

 その場も楽しく翌年答え合わせしてまた楽しい座興であるが、98勝ぐらいで驚いてはいけない。過去には125勝という数字を叩き出した御仁もいる(年間143試合なのに)。希望的観測に夢を託すか現実を直視するかは人によるし、そのときの気分によっても違う。優勝した翌年に48勝や66勝と悲観的な数字を出す人もいれば、毎年必ず90勝以上を積み上げる人もいる。各年度の最多予想と最少予想を平均すると、103.9勝と69.2勝。その間の現実の阪神タイガースの平均勝利数は71.5勝(2011年は除く)なので、悲観主義者の予想よりは勝っていることになる。

 メンバーが集まるのは年に一回、この「虎の会」のときだけだ。が、乾杯の瞬間からこれほど盛り上がる飲み会をほかに知らない。近年は平均年齢の上昇もあり一次会でお開きにしているが、かつては二次会、三次会まで語っても語り尽きることがなかった。

 しかし、かくも楽しい宴をここ2年は開催していない。言うまでもなく新型コロナの影響である。2020年はギリギリ開催できるタイミングで、参加予定の一人が風邪っぽいので大事を取って欠席したのを「Kさん、コロナだって(笑)」と冗談ネタにしていたら、4月には最初の緊急事態宣言が発令。そこからは本当にシャレにならない事態になってしまった(Kさんはコロナではなく今もお元気)。

 第8波の現状と比べれば当時は感染者数も死亡者数も微々たるものだったが、飲食店は休業や時短営業を余儀なくされた。プロ野球も無観客試合やスタンドでのアルコール販売自粛(というか実質的には禁止)などの憂き目に遭う。【10品目】でも書いたが、球場に足を運ぶ理由の何割かはスタンドで飲むビールである。それが許されないなら、テレビ(CS)なりネット中継なりで観戦したほうがいい。

 今年も「虎の会」は自粛した。岡田監督復帰で例年以上に盛り上がるはずなのに残念だが仕方ない。世間的にはかなりゆるい雰囲気になってきているけれど、自分としてはまだ大人数での会食は避けるべきだと考えている。ましてや口角泡を飛ばして阪神タイガースについて語り合う集団は、お店にとっても周りのお客さんにとっても迷惑だろう。コロナじゃなくても迷惑な気もするが、だからといって黙食では意味がない。「虎視眈々」はコロナ禍を何とか乗り切り健在だ。来年こそは復活させたいと思っているが、はてさてどうなることやら……。

 

文:新保信長

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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