国境を超えアジアに広がる〝推し活〟 「羽生結弦」と「MIRROR」驚異の市場 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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国境を超えアジアに広がる〝推し活〟 「羽生結弦」と「MIRROR」驚異の市場

 

■香港発の男性アイドル「MIRROR」とファンが街をジャックする              

 一方、香港では2018年に香港発となる大規模な男子アイドルグループとして「MIRROR」が12人でデビューした。彼らは香港で初めてとなる本格的な男性アイドルグループで、さらに香港現地の広東語で歌う姿も共感を呼び、2020年から一気に爆発的な人気となった。歌手としてはもちろんドラマやCMでも活躍。

 2021年には日本はもちろん、香港でも大人気となったドラマ「オッサンズラブ」を香港版にリメーク。人気メンバーのイーダン・ルイ、アンソン・ロー、スタンリー・ヤウが主要キャストを演じ、彼らの人気はさらに加速した。CMでは「マクドナルド」や携帯電話の「CSL」など10社以上に出演。資生堂や日立など日系企業の広告にも出演している。香港の中心地の尖沙咀(チムサーチョイ)では彼らのファンがお金を出し合ってショッピングモールのアーケードに巨大な全面広告を出稿。そこでファンが記念写真を撮るために大混雑となった。

 さらに2022430日はメンバーの中でトップの人気を誇る姜濤の誕生日であったが、香港島の中心地のコーズウェイベイの巨大スクリーンにもファンが広告を出稿した。さらには香港の風景を代表し市民の足ともなっているトラム(路面電車)を、ファンがお金を出資し丸一日借り上げ、トラムの無料乗車デーが開催される。姜涛の写真や「ハッピーバースデー」の文字が塗装されたラッピングトラムも登場した。このラッピングトラムが銅鑼湾を通過する際には数百人の市民が沿道に集まり、写真を撮るなどして大混雑となり、まさに香港の街をMIRRORのファンがジャックした。コロナの感染予防を名目に大人数での集会を禁止されていた香港で、久しぶりに人々が大集合する姿が見られた。

 

MIRRORの姜濤の誕生日にファンが貸し切りにしたトラム

 

携帯電話「CSL」のイベントに登場したMIRRORの巨大スクリーン映像

 

 この香港でのMIRRORの人気と、女性はもちろん全市民レベルでの「推し活」状況を香港でMIRRORのデビュー時より取材してきた日系メディア関係者はこう分析する。

「香港では2019年に大規模な香港デモが起きましたが、2020年にはコロナの感染予防を名目とし外で5人以上の人が集まるのを禁止され、厳格なマスクの着用も義務づけられるなど、厳しい規制が続きました。それに加えて、国安法による実質的な一国二制度の終焉と、当局による厳しい言論の自由の制限はネット空間にまで拡がり、香港社会全体に閉塞感が広がっていきました。その中で、MIRRORが登場し、彼らの歌う『WARRIOR』という曲の『Never give up! I got it I’ve got a warrior heart (僕たちはあきらめない、戦士のように強い心を持とう)』という歌詞や、姜濤のソロ曲『蒙著嘴說愛你』のタイトルは『口を隠していてもアイラブユーと言おう』という意味で、コロナ禍の中でマスク生活を続ける人たちを励ます歌です。このような彼らの歌やメッセージに香港の老若男女問わず共感し、コロナ禍で沈み込み、人々が集まることまでも禁止されていた香港で、姜濤の誕生日を口実に街をジャックするほどの熱狂的な推し活に繋がったのです」と、分析する。

 しかし彼らは20227月に香港の武道館とも言われるホンハム体育館での初の単独コンサートを開催したが、ステージ上の巨大スクリーンが落下し、バックダンサーが半身不随の重傷を負うという事故が発生。これを受けコンサートはすべて中止される。本来は翌8月に開催される日本のサマーフェスにも出場予定であったがすべての活動を数カ月間休止せざるを得なかった。しかし昨年12月から活動を再開、今年に入りさらに本格的に再始動をしている。昨年かなわなかった日本での活動も再開され、日本でも推し活ファンが増えるのか注目される。

 

Mirrorの姜濤の誕生日を祝うために集まったファンたち

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初田宗久

はつた むねひさ

香港在住のジャーナリスト

ジャーナリスト、編集者。早稲田大学卒業後、出版社で情報誌から学術系書籍まで20年間編集業務に従事。その後、香港、台湾、中国に渡り、現地で中国語を徹底的に学ぶ。中華圏の様々なニュースから日本の労働問題や芸能事情まで精通し、多くの記事を投稿し注目されている。著者に『ブラック企業やめて上海で暮らしてみました』(扶桑社)、『「中国人の9割が日本人が嫌い」の真実』(トランスワールドジャパン)などがある。香港在住。

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