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新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【22品目】ところ変われば品変わる

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」22品目

 妻のソウルフードは諫早駅前の食堂の「ごぼ天うどん」だ。私にとってごぼ天とは練り物の中心にごぼうが入ったおでんの具のイメージなので「あれをうどんに入れるの?」と訝しく思ったが、普通にごぼうの天ぷらのことだった。そして、うどんはコシのないやわやわのが良いという。博多うどんもやわらか麵なので、九州北部はそういう嗜好なのだろう。が、東京ではコシが命の讃岐うどんが全盛だし、ご当地うどんの武蔵野うどんもアゴが疲れるほど硬く、やわらか麵のお店はあまりない。「うどんにコシなんかいらないんだよ!」派の妻は、しょうがないのでスーパーで買ってきたうどんをやわやわに煮たり、やわらか麵選手権日本代表の伊勢うどんのパックを買ってきてゆでたりしている。

 伊勢うどんは私も好きだが、初めて旅先で食べたときは正直「何じゃこりゃ!?」と思ってしまった。大阪のうどんも讃岐や武蔵野と比べればやわらかいが、伊勢うどんのやわらかさは自分の中のうどんの概念を超えていた。普通のうどんをごはんとすれば、伊勢うどんはおかゆとか何なら重湯ぐらいの感じ。やわやわというよりふわふわだ。汁ではなく、タレをかけて食べるスタイルも新鮮だった。

 同じく初めて食べて驚いたのが、沖縄そばだ。中3の夏休みに部活仲間と沖縄旅行に行ったときに食べたのが初体験。「そばというより細いうどん? 太いラーメン?」と思ったが、製法からしてその感想は間違ってはいなかった。沖縄でもうひとつ驚いたのは、夏の真っ盛りに「ぜんざい」を注文する人がいたことだ。「この暑いのにぜんざい!?」と思ったら、その人の前に出てきたのは、いわゆる「氷あずき」。今調べたら、あずきじゃなくて金時豆らしいが、どっちにしても私がイメージするぜんざいとはまるで違う。

 食に関する地域差は、挙げだしたらキリがない。そのなかで実は個人的に一番面倒くさいと感じているのが、定食の配置である。店によって違いはあると思うけど、大阪では左手前にごはん、その右にメインのおかず、左奥に味噌汁、右奥に小鉢やお新香というのが基本。一方、東京では左手前にごはん、その右に味噌汁、左奥にメインのおかず、右奥に小鉢やお新香というのが一般的である。この東京式の配置が、どうにも納得いかないのだ。 

 大阪で生まれ育った私が大阪式のほうに馴染みがあるのは当然だが、単に馴染みの問題だけではない。右利きの自分は右手で箸を持ち、左手で茶碗を持つ。すると、東京式の配置だと、おかずに手を伸ばしたときに味噌汁が邪魔になる。味噌汁のお椀を持ち上げようとすると、ごはんが邪魔になる。これはどう考えても配置として失敗だろう。その点、大阪式なら左手で持つごはんと味噌汁が左側に並んでいるので、動線がスムーズだ。

 さまざまなアイテムに関する地域差にスポットを当てた『くらべる日本』(文:おかべたかし、写真:山出高士)でも、この定食配置問題は取り上げられていた。解説文には〈東京にも「配膳のときはご飯と味噌汁は横並びだけど、食べるときにはご飯の上に置き直す」という人も少なからずいて、この大阪方式の利点を認める人は他地域にも一定数いそうだ〉との記述がある。私もいちいち置き直す派。面倒くさいが、そっちのほうがストレスが少ない。合理的な大阪式を、ぜひ全国の定食屋で採用していただきたい。

 

 文:新保信長

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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