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新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【21品目】あんまり尽くされても困る

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」19品目


「食堂生まれ、外食育ち」の編集者・新保信長さんが、外食にまつわるアレコレを綴っていく好評の連載エッセイ。ただし、いわゆるグルメエッセイとは違って「味には基本的に言及しない」というのがミソ。外食ならではの出来事や人間模様について、実家の食堂の思い出も含めて語られるささやかなドラマの数々。いつかあの時の〝外食〟の時空間へーー。それでは【21品目】「あんまり尽くされても困る」をご賞味あれ!


イラスト:おくやま ゆか

 

【21品目】あんまり尽くされても困る

 

 あんまり尽くされても困るよなあ、と思うことがある。好きな気持ちはわかるけど、あふれる愛情と情熱を受け止めきれない。そういうのがうれしい人もいるのだろうが、残念ながら私にはちょっと重い。だんだん飽きてくるし、最後には胸やけしてしまったり……。 

 おいおい、突然何を語り始めたのか。オマエのモテ自慢など聞きたくないわ、とページを閉じようとした方、ちょっと待って! 恋愛じゃなくて、お店の話です。

 たとえば先日ランチで入った店は、エビ尽くしだった。店名からして「(地名+)シュリンプ」なのでエビ推しなのは明らかだ。もしエビじゃなくてマグロ推しとかだったら逆にびっくりする。ランチメニューは、天丼、特上天丼、特上大海老天丼、濃厚海老カレーの4種類(以前は海老そばもあったらしい)。天丼を注文し、待ってる間に夜のメニューを見てみると、これがなかなかすごかった。

 お刺身が、天使の海老、赤海老、入荷次第の海老、3種食べ比べ。おつまみは、甘海老の塩辛、天使の海老の塩焼き串、赤海老のサルサ和え、キムチと海老のせ奴、海老味噌きゅうり、ツブ貝のチャンジャ、海老入り出し巻き玉子、海老マヨ。サラダはシュリンプサラダ、温かいブロッコリーと海老のサラダ。一品料理が、海老のアヒージョ、牡蠣のアヒージョ、海老と牡蠣のアヒージョ、ガーリックシュリンプ、スパイシーホットシュリンプ、麻婆豆腐シュリンプ、海老とホタテのバター醤油というラインナップ。右を向いても左を見てもエビ尽くし。エビじゃないのはツブ貝のチャンジャと牡蠣のアヒージョの2つだけという、潔いほどのエビ推しなのである。

 【19品目】のカニの話でも書いたけど、甲殻類アレルギーとか皮をむくのが面倒くさいとかいう理由を別にすれば、エビが嫌いな人はあまりいないだろう。事実、日本人は世界でも有数のエビ好き民族で、『エビと日本人』(村井吉敬/岩波新書)なんて本も出ているくらいである(しかも第二弾『エビと日本人Ⅱ』も出てる)。エビフライ好きで知られる名古屋人ほどではないにせよ、私もご多分に漏れずエビは好きだ。そうでなければ、その店にも入っていない。にしても、そこまでエビ推しとは……。

 とか言ってるうちに運ばれてきたランチの天丼は、エビ2尾・イカ・ナス・サツマイモ・シイタケ・大葉・カボチャのトッピング。エビはさすがにプリプリで、揚げ具合もタレの塩梅もほどよい感じ。サツマイモとカボチャは甘くてごはんに合わない(酒にも合わない)と常々思っているのだが、天ぷらの定番なのでまあヨシとしよう。ごはんの上に刻み海苔と明太子がちょこっとまぶしてあるのも気が利いてる。付け合わせのミニミニ冷や奴+漬物もうれしい。ランチの天丼としては申し分ない。

 ただ、ひとつだけ問題があった。セットの汁物がエビのビスクスープだったのだ。スープ単体としては濃厚でおいしかった。でも、天丼に合わせるなら、そこはやっぱり味噌汁でしょう。もうひとつのランチメニューである濃厚海老カレーならビスクスープでいいと思うけど、天丼とビスクスープは正直合わない。どうしてもエビにこだわるなら、桜エビの味噌汁とかエビのすり身のお吸い物とか、そういう方向にしてくれないか。

 なんてのは客のわがままだし、夜にも一度行ってみようと思うぐらいにはおいしかったので、ランチからディナーに誘導するという飲食店のセオリーとしては成功している。とはいえ、夜のメニューを見て何を食べるか想像したときに、あまりにもエビ尽くしで逃げ場がないというか、ちょっと飽きそうな気もするのだ。実際どうかは食べてみないとわからないが、カニだったらひたすらカニ尽くしでも飽きないのに、エビだとそう思えないのはなぜだろう。単に好みの問題で、エビ尽くし最高!という人もいるのだろうか。

 

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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