「これ明日までにやっといて!」と仕事を無茶振りされる私ですが、常識的なクライアントと付き合うにはどうすればいいの?【角田陽一郎×加藤昌治】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「これ明日までにやっといて!」と仕事を無茶振りされる私ですが、常識的なクライアントと付き合うにはどうすればいいの?【角田陽一郎×加藤昌治】

あんちょこ通信 第11回

 

■「後工程の人が楽しくなる」ように、仕事にアートを。

 

加藤:スモールビジネスであるがゆえに、いわゆる「仕事をアート化」することができると思う。僕も会社の仕事や本を書いたりするときにテープ起こしをお願いする場面があるんだけど、ものによっては一回に2030ページになることがあるじゃない?

角田:特に僕たちは延々と喋ってるからね。

加藤:その時にノンブル(ページ番号)がついているテープ起こしはほとんどない。ノンブルが付いているだけでも、もらったほうは全然楽になるんだけどなぁって。

 あるいはテープ起こしの文字の大きさは何ポイントがいいのかとか、どこで改行するといいのかとか、テープ起こしのような一見単純な納品物でも、広い意味でもっとアーティスティックなアウトプット、商品として作ることはできるんだと思うんだよね。

角田:できるだろうし、やったほうがいいね。全員が何らかの意味で「職人」になったほうがいい。車でいえば、大きい工場では、多くの工員が流れ作業の一部になって働いて車を作っていると思うけど、『仕事人生あんちょこ事典』の「ルサンチマン」の項でも話したとおり、フェラーリなんて一人のおじいさんが一個のエンジンを作るから、すごい時間がかかって一日に数十台しか作れない。だけど何千万円のフェラーリになるわけだよ?

加藤:「ひとりがとことん作る」というアートも、「分業」というアートもあって、それぞれがアートなんだと思う。テープ起こしという仕事は基本的には「分業の一工程」なわけだけで、人と同じように仕上げていたら価格競争に飲み込まれてしまう。だから「この人に頼むと仕上がりが違って、文章にしやすいんだよね」みたいなアウトプットを作れるかだね。

 ということは、後工程が誰か、によって自分のパートで仕様を変えることもできる。普通はさ、もらったデータをそのまま印刷すると、右の余白も左の余白も同じ幅だよね。で、かとうは多めの赤を入れてしまう傾向があるんで、テープ起こしをもらったら、本文を左に寄せて右に余白を作って、赤を入れやすくしてるのね。例えばだけど、「そういう左寄せ仕様も可能ですよ〜」と前もって云われるだけでも、そのテープ起こし、全然違うよね。

 テープ起こしの本質は「言葉をどれだけ正確に再現するか」だけど、それに関しても、お互いの相性が分かってくればカスタマイズができる。

 かとうの文章は間を表現しようとして「…」って表記が多くなりがちなんだけど、それがある程度再現されているようなテープ起こしもあり得るよね。

 こんなふうにさ、純然たる機械的な作業を越えて、自分なりに後工程の人がやりやすくなる、もっと云えば後工程の人が楽しくなるようなアウトプットの仕方ってあると思うな。

角田:「後工程の人が楽しくなるようなものを作る」というのは魅力的だね。「フェラーリに乗る」も、ある意味では「後工程の人が楽しくなる」ことだもんね。

加藤:テープ起こしは中間財だけど、車のような最終財なら「後工程」は直接のお客さまになる。「後工程の人が楽になるようなものをつくる」というのが、実は「分業」ということじゃないかな。

角田:そうか、だから「分業もアートになる」んだね。

 この質問への回答をまとめると、まずは交渉をしない。むしろ自分側に、後工程を楽しくさせるアート的な感覚を持つ。そして一時的に減ったとしても、お客さんを選ぶ。

加藤:仮に目の前のお客さまが減っても、いくらでもいるでしょ。

角田:冷静に考えると13000万人いるから、探せばいるよね。

加藤:テープ起こしの場合は、べつに直接会わなくてもオンラインでいいわけだから、実はお客さまはいっぱいいるはず。目の前にだけ縛られているともったいない。

 「マーケティングの4PProduct(製品・商品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション))」でいうところのPlaceと、自分自身のProduct、もちろんPriceには、工夫の余地が何かしらあると思うから、そこを考えるだけでも何かが変わり始めると思います。

  

構成:甲斐荘秀生

 

《いますぐ役立つ!「あんちょこ通信」過去連載記事》

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角田 陽一郎/加藤 昌治

かくた よういちろう かとう まさはる

角田 陽一郎(かくた・よういちろう)

バラエティプロデューサー/文化資源学研究者 

千葉県出身。千葉県立千葉髙等学校、東京大学文学部西洋史学科卒業後、1994年にTBSテレビに入社。「さんまのスーパーからくりTV」「中居正広の金曜日のスマたちへ」「EXILE魂」「オトナの!」など主にバラエティ番組の企画制作をしながら、2009年ネット動画配信会社を設立(取締役 ~2013年)。2016年TBSを退社。映画『げんげ』監督、音楽フェスティバル開催、アプリ制作、舞台演出、「ACC CMフェスティバル」インタラクティブ部門審査員(2014、15年)、SBP高校生交流フェア審査員(2017年~)、その他多種多様なメディアビジネスをプロデュース。現在、東京大学大学院にて文化資源学を研究中。著書に『読書をプロデュース』『最速で身につく世界史』『最速で身につく日本史』『なぜ僕らはこんなにも働くのだろうか』『人生が変わるすごい地理』『運の技術』『出世のススメ』、小説『AP』他多数。週刊プレイボーイにて映画対談連載中、メルマガDIVERSE配信中。好きな音楽は、ムーンライダーズ、岡村靖幸、ガガガSP。好きな作家は、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、司馬遼太郎。好きな画家は、サルバドール・ダリ。

                                                             

加藤 昌治(かとう・まさはる)

作家/広告会社勤務

大阪府出身。千葉県立千葉髙等学校卒。1994年大手広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』(CCCメディアハウス、2003年)、『発想法の使い方』(日経文庫、2015年)、『チームで考える「アイデア会議」考具応用編』(CCCメディアハウス、2017年)、『アイデアはどこからやってくるのか 考具基礎編』(CCCメディアハウス、2017年)、ナビゲーターを務めた『アイデア・バイブル』(ダイヤモンド社、2012年)がある。           

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