新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【18品目】お熱いのはお好き?
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」18品目
今まで食べたなかで見た目も中身も一番熱々だったのは「石焼らーめん _火山」である。栃木県が本拠地のラーメン店が2017年に都内1号店として下北沢に出店した際、物珍しさもありオープン早々に行ってみた。300度(!)に熱した石鍋に麵と具が盛られ、目の前で店員さんが熱々のスープを注いでくれる。ジュワーッと盛大な音と湯気を立て、まさに活火山のマグマのようにグツグツと煮えくり返る図は見た目にも楽しい。当時はちょうど「インスタ映え」という言葉が流行り始めた頃で、これはウケるだろうなと思ったものだ。
とはいえ、さすがにそこまでグツグツいってると、猫舌の人間としてはいささか怯む。勇気を奮って一口すすれば、思わず吐き出したくなる熱さ。何しろ器が300度なので、そう簡単に冷めない。フーフーしながら頑張って食べたものの、熱さの記憶のほうが強烈で味はよく覚えていない。それなりにおいしかった気はするが、この店も前述のラーメン店同様、再訪する機会のないまますぐに閉店してしまった。生き馬の目を抜く下北沢では、ぬるくても熱くても閉店する店は閉店するのである。
ちなみに、私のような半端な熱々好きとは違う本物の熱々好きのことを「マグマ舌」と呼ぶらしい。知人のライター・とみさわ昭仁さんの発案で、とみさわさん自身もマグマ舌だ。当然「石焼らーめん _火山」にも取材に行っていて、クッキング温度計でスープの温度を測ったら98.4度にも達したという。そんな熱々を嬉々として食べるとみさわさん。〈どんぶりから取り分けて冷ましながら食べられるように茶碗も付いてくるが、こういうとき、ぼくはどんぶりからダイレクトに食べる主義である。/熱いものを食べに来ているのに、なぜわざわざ冷ます必要があるのだろうか!〉という堂々たる態度にマグマ舌の真髄を見た。
強靭な舌を持っていてうらやましい……と思ったが、同じ人間であるからして火傷をしないわけではないという。それなりにフーフーしたり水を飲んだり、対策をしたうえで熱々に挑む。その熱々と火傷のせめぎ合いがいいのだとか。まるで武芸者のようである。
熱々好きだけど猫舌なんて言ってる私は、つまり気合が足りないということか。熱々の道は遠く険しい。鍛えて強くなるものではないと思うけれど、それはそれとしてやはり熱いものは熱い状態で供してほしいとは思うのであった。
文:新保信長
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