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“性的退却先進国” 日本で「愛と性」を諦めない女性が幸せを掴むには【藤森かよこ】

馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性


「ニッポンに王子様はもういない。愛も性もゼイタク品となった時代をサバイブする、すべての女性が読むべき激辛にして、効果抜群のワクチン本だ。」作家・石田衣良さんが絶賛した藤森かよこ氏の最新刊『馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性』が話題だ。性的退却と人間関係の解体が進行してしまった日本で、“愛と性”を諦めていない女性たちは幸せな人生を創ることはできるのか? 歯に衣着せぬ語り口で人気の藤森かよこ氏が愛をこめて書き下ろした最新刊のメッセージとは。(「まえがき」より抜粋)


 

 

◆ “愛と性” を充実させることを決して諦めていない人たちへ

 

 大きく時代が変わる前の過渡期であり、今までの生き方が通用しないことが予測できる危機の時代において、馬鹿ブス貧乏な普通の女性たちが、無駄に恐怖や不安や焦燥を感じて萎縮することなく自分なりの人生を創るためのヒントを、愛や性の観点から提示することが本書の目的だ。

 「方法」ではなく、「ヒント」を提示すると書いたのは、生き方はいろいろで自分で選ぶしかないからだ。価値観が多様化して混乱している今の時代に、これこそが適切な方法だとは誰も言えない。自分で選ぶしかない。カリスマYouTuber とかオンラインセミナーとかカウンセラーとか占い師とか霊能者とかの意見は参考にしておくだけにしてください。

 本書は、2019年に出版された『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』(以後、「馬鹿ブス貧乏黄色本」と書く)と、2020年に出版された『馬鹿ブス貧乏な私たちを待つろくでもない近未来を迎え撃つために書いたので読んでください。』(以後、「馬鹿ブス貧乏水色本」と書く)の続編である。

「馬鹿ブス貧乏黄色本」は、馬鹿でブスで貧乏な女性のための自己啓発本だ。私の定義では、馬鹿とは一を聞いて一を知るのが精一杯で、特に学校の成績が良かったわけでもなく、地頭がいいわけでもなく、平々凡々であり、努力しなければどうしようもない程度の能力の持ち主のことだ。

 ブスというのは、顔やスタイルで食っていけず、繁華街を歩いていてスカウトされたことなど一度もない程度の容貌の持ち主のことだ。

 貧乏とは、賃金労働をして生活費を稼ぐしかなく、大恐慌やハイパーインフレや預金封鎖が起こり、預金保険機構でさえ潰れてペイオフ不可能などの経済的大変動があれば、すぐに困窮する程度の資産しか持っていない状態のことだ。要するに、普通の平凡な女性の状態のことだ。

 世に多く出版されてきた自己啓発本は、スペックが高い人にしか実践できそうもないことばかり書いてあると私には思えた。だから、普通の馬鹿ブス貧乏ではあるが、向上心があり、素直に幸せになりたくて、かつ少しは読書をする女性なら実践できることを、私自身の体験から選んで書いた。

 ところが、2020年にコロナ危機が始まり、私が書いた内容が通用しない状況が、私の予想より30年早く到来した。近未来はほとんどの人間が無用者階級になると、イスラエルの歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは予測している。AI化で普通の人間の仕事が消えたら、馬鹿ブス貧乏な普通の女性たちは、どう生きていけばいいのだろうか。そんなディストピア的近未来への対処法を書いたつもりだったのが、2020年暮れに出版された「馬鹿ブス貧乏水色本」だった。

 それから数か月が経過した2021年の春ぐらいのことだった。「馬鹿ブス貧乏本」の第3弾として「性」について書いてみませんかと誘惑された。

 私はそのときにこう思った。「共同体のパーツとして埋もれるのではなく、個人が個人として生きて行けるような世界、個人の自由を拡大する世界をつくるというのが18世紀からの世界史の方向だった。この動きは、一時期は後退するとしても元には戻らない。人間関係の解体と希薄化は、個人の自由とセットのものであり、全体としては止めることができない。それでも、人間を癒すのは他人との絆であり愛でしかない時代は、しばらくは続くだろう。他人との絆を形成する入り口が性体験であることが多いのも事実だと思う」と。

 とはいえ、私は、愛だの性だのについて書くような見識もないし、豊富な経験もない。恋愛とか男女問題に興味があるような年齢はとっくに過ぎた。

 ときどき、動画配信サービスでボーイズ・ラブ(BL)系恋愛ドラマなどを見て胸をキュンキュンさせていれば、それでいいのだ。完璧な美男美女が登場する韓国の恋愛ドラマを視聴して、「こんな美男美女でも排泄するし、下痢にもなるし、便秘にもなるんだなあ」と思っていればいいのだ。Twitter に氾濫する夫や恋人への愚痴を読んでも、「こんなところに愚痴を書いているうちはダメだな。ほんとうに相手を見切ったら、行動に移すもんな。21世紀に、何でいつまでたっても昭和やっているんだろうか?」と思うだけだ。

 ちなみに、私にとっての愛の定義はシンプルだ。副島隆彦は、『副島隆彦の人生道場』(成甲書房、2008年)において、「愛というのは『男女が、一緒にいて、気持ちがいいこと、楽しいこと、嬉しいこと』のことなのだと、気がついた」(128頁)と書いている。要するに、男女だろうが、同性どうしだろうが、人間とペットだろうが、一緒にいて楽しいのなら愛なのだ。納得だ。一緒にいて楽しくないなら、離れているしかない。

 愛の定義はさておいて私は、巨大な水槽のガラスに顔をくっつけて魚を眺めているように、世の中を眺めているのが好きなだけの人間だ。だから、今まで生きてきた日々を振り返っても、「平和な時代に生きて食べてこられたことのありがたさ」を感じると同時に、「あ~~しょうもないことばかりしてきた。というか何もしてこなかったな」という思いがある。何ひとつマトモにできなかった人生ではあるが、それで精一杯だったのだから、しかたがない。後悔しようもない。

 しかし、充実していた時間はいっぱいあった。それは、誰かに何かを届けたくて懸命に作業しているときだった。たとえば、どうやったら興味を持ってもらえるだろうかと、教師時代に自分の担当科目の講義の準備をしていたとき。日本では無名の作家を知ってもらいたくて、その作家に関する紹介のような論文やブログ記事を書いていたとき。その作家アイン・ランド(1905-1982)が1943年に発表した『水源』(ビジネス社、2004年)を読んでもらいたくて、翻訳をしていたとき。誰かが読んでくれるといいなあと思いつつ、原稿を書いているとき。

 やはり、人間は他者に愛情を向けて行動しているときがもっとも充実しているのだろう。たとえ、それが無意味な独り善がりの行為だとしても。そういう時間は、幸福だの不幸だの意識もしないほどに夢中になっている。損だの得だのも考えていない。過去も未来もどうでもいい。他人からどう見えようが、どうでもいい。自分の意識が外部に漏電していない。何も感じないほどに集中している。

 やはり、そういう時間を、誰かを、何かをひたすら愛しているという時間をなるたけ多く持つことが、人生の幸福で生き甲斐なのだろう。

『馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性』の著者・藤森かよこさん

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。

 

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