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新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【16品目】最高のおやつ

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」16品目

 おやつといえば、もうひとつ思い出すのが天ぷらだ。ウチの食堂は通し営業だったが、3時前後は客足も少ない。そんなとき、店をうろうろしていると調理場のおにいさんが天ぷらを揚げてくれることがあった。といっても、エビやイカのようなメイン食材ではなく、だいたいいつも海苔だった。一枚の海苔に半分だけ衣をつけて揚げたやつ。これがめちゃくちゃうまかった。揚げたてパリパリの海苔の香ばしさと薄い衣のコンビネーションが絶妙で、何枚でも食べられる。

 天ぷらがおやつに入るのかどうかわからないが、自分の記憶の中では最高のおやつだった。今考えれば、味もさることながら、「人からもらう」というところがポイントだったのではないか。自分で買ったり、そこにあるものを勝手に食べたりするよりも、「これ食べな」と出されたほうが、なんとなく特別感がある。しかも、目の前で揚げるというパフォーマンス付き。そりゃ記憶にも残るだろう。熱々の海苔が上あごに張り付いて軽く火傷したのもいい思い出だ。

 ちなみに、ウチの妻に「子供の頃、おやつってあった?」と聞いたら、「ブルボン!」という返事が返ってきた。妻の家も共働きで、おやつとしてブルボンのお菓子(主にホワイトロリータ)が置いてあったらしい。妻は漫画家で、子供時代のことを描いた『スラム団地』という作品があるのだが、その中でも家に遊びに来た友達と一緒にホワイトロリータを食べるシーンがあった。

 そんな妻のキング・オブ・おやつはカルビーのポテトチップス。「袋をまりまりって開けるところからエンターテインメント!」「パリパリの薄いポテチ最高。あれで顔を洗いたいぐらい」と絶賛が止まらない。「そんなに?」と思うが、確かにカルビーのポテトチップスは昭和中期生まれの子供には衝撃の味だった。前述のぼんち揚げ、サッポロポテト、カールなどとは違う素材そのまま感の味が、かっぱえびせん以上に「やめられない、とまらない」。

 というか、かっぱえびせんもサッポロポテトもポテトチップスもカルビーの製品である。同社のホームページを見たら、かっぱえびせんは1964年、サッポロポテトは1972年、ポテトチップスは1975年の発売だった。なんと、かっぱえびせんは私と同い年! サッポロポテトは札幌オリンピックにちなんだネーミングとのことで、歴史を感じる。

 海苔の天ぷらとポテトチップスが最高のおやつだったという夫婦。三つ子の魂百までというか、そら毎晩酒飲みますわな。妻は今もポテチ好きで、湖池屋の「じゃがいも心地 オホーツクの塩と岩塩」にハマっていた(最近は近所で売ってないらしくしょんぼりしている)。私のほうの海苔の天ぷらはなかなか食べる機会がない。天丼てんやの単品メニューか丸亀製麺の天ぷらラインナップに入れてくれればうれしいのだが。

 

 文:新保信長

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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