マスクとワクチンはどちらでも良い 【森博嗣】連載「静かに生きて考える」第13回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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マスクとワクチンはどちらでも良い 【森博嗣】連載「静かに生きて考える」第13回

森博嗣「静かに生きて考える」連載第13回


新型コロナのパンデミック、グローバリズムの弊害、ロシアのウクライナ侵攻、安倍元総理の暗殺・・・何が起きても不思議ではないと思える時代。だからこそ自分の足元を見つめ、よく観察し、静かに考えること。森先生のエッセィは、私たちをはっとさせる思考の世界へと導いてくれます。連載第13回。


 

 

第13回 マスクとワクチンはどちらでも良い

 

【マスク問題はどちらでも良い】

 

 今回は異例ともいえる世間擦れした話題。ファンの方からこの手の質問がときどき来る(最近は返事を一切していない)。はっきり言うと、どうでも良い問題だし、どちらでも良い。「好きにすれば」が、僕の返答である。

 しかし、お金をもらって文章を書いているのだから、話題として取り上げるのも悪くはないだろう。僕は無料で呟いたりしない。その種のモチベーションがないし、承認欲求も皆無。

 まず、マスク問題から。マスクをすれば感染の確率が下がる。これには科学的根拠がある。充分かどうかは別として、幾らかの効果はある。あくまでも確率の問題だ。

 マスクをしたくない人もいる。それは個人の権利といえる。法律でマスクをしないと駄目だと定められたら、その場合はするか、あるいは裁判に訴えるかしかないが、そのような法律は今はない。個人のエリアなら、そこの主が「マスクをした人だけ入場可」と決められるから、マスクをしない人はそこに入れない、というそれだけの問題だ。

 してもしなくても、いずれも自由。ただ、他者に対して「みんなも自分と同じようにしろ」と主張するのは、僕は賛成できない。そこまでの権利はない。さらに、自分の立場と反対の人に対して「頭がおかしい」などと非難するのもどうかしている。それこそ頭がおかしいか、あるいはビジネスとしてわざと炎上して注目されたい人に限られる。

 マスクをしない派は、自分だけマスクをしなければそれで事足りる。しかし、マスクをしたい派は、相手もマスクをしてくれなければ感染の確率を充分に下げられないから、その意味で「皆さん、マスクをしましょう」と訴えたい。その気持ちはわかる。ただ、気持ちがわかるというだけで、それが正しいかどうかはまた別問題。

 僕は、相手が大事な人で、その人がマスクをしていたら、自分もマスクをするだろう。着衣や笑顔や挨拶と同じだ。非常に簡単な誠意の示し方である。ただ、そもそも人に会わないので、マスクを必要としていない。

 どちらでも良いことだ。大きな問題だとは思えない。マスクをするよりも、しゃべらない方がずっと効果がある。みんなで静かにしていれば良いのに、とは考える。

 

【ワクチン問題もどちらでも良い】

 

 マスクよりも相談が多いのがワクチン。こんなことを森博嗣にきいてどうするのか、と苦笑する。接種した方が発病や重症化のリスクが小さくなるデータは一応示されているが、副反応・副作用が怖い人もいるはず。感染に気をつけていれば良いのだから、危険を冒したくないと考えるのだろう。間違ってはいないし、もちろん自由だ。

 だから、どちらでも良い。ただし、マスクよりは健康への影響が不透明である分、不安はどうしても消えないだろう。いろいろなデータを調べ、自分で自分の躰と相談して判断するしかない。

 ところで、普通の人は普段から多種の薬を飲んでいる。僕は成人以来、風邪薬も頭痛薬も胃腸薬も一切服用したことがない。薬の安全性というのは、いずれも100%ではない。リスクを覚悟してベネフィットに期待するものである。

 ワクチンについての一番の問題は、他者に対して「接種しろ」と言ったり、「打つな」と言ったりする人たちだ。この場合も、ビジネスとしての宣伝行為はある程度はしかたがない。金儲けのためなら、これくらいの発言は「表現の自由」だが、責任は伴う。また、自分の考えを主張しているだけなら、それも悪くない。なんでも言える。「夜に爪を切ったら親が死ぬ」と触れ回っても犯罪ではない。

 さきほどと同じく、個人のエリアへの入場の条件として、ワクチンを接種した人に限る、というのもぎりぎり自由だと思うが、根拠はかなり不明確だと感じる。

 専門外の森博嗣の意見を聞きたい、という人には呆れるばかりだ。僕は「全然わからない」に近い。それでも、科学的に考えて、感染を抑制する効果は少ないだろう、とは思った。ワクチンはウィルスが体内に入ってから働きかけるものだから、マスクのように侵入を防ぐものではない。だから、ワクチンを打てば「人にうつさない」「実家へ帰れる」「大勢が打てば集団免疫ができる」と考えるには無理がある。換気をし、テーブルなどをアルコールで拭いているのだ。空気やテーブルよりも、ワクチン接種者の方がずっとウィルスを運ぶ能力がある。現に、ワクチンによって感染者を減らすことはできなかった。

 つまり簡単にいえば、ワクチンを打つか打たないかは、その人自身の(発症や重症化の)問題であり、他人(への感染)のために打つ効果は小さい、ということ。

次のページ大勢に訴えようとする理由は?

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森博嗣

もり ひろし

1957年、愛知県生まれ。小説家、工学博士。某国立大学工学部助教授として勤務する傍ら、96年『すべてがFになる』で第一回メフィスト賞を受賞し、作家デビュー。以後『イナイ×イナイ』から始まるXシリーズや『スカイ・クロラ』など多くの作品を執筆し、人気を博している。ほかにも『工作少年の日々』『科学的とはどういう意味か』『孤独の価値』『本質を見通す100の講義』『作家の収支』『道なき未知』『アンチ整理術 Anti-Organizing Life』など著書多数。最新SF小説『リアルの私はどこにいる? Where Am I on the Real Side?』、森博嗣著/萩尾望都原作『トーマの心臓 Lost heart for Thoma』が好評発売中。9月21日に『新装版-ダウン・ツ・ヘヴン - Down to Heaven 』が発売予定。

 

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