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新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【13品目】取り皿問題

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」13品目

 取り皿そんなに替えなくていい派の私も、ここは山岡に賛成だ。いくらなんでも中華料理で一人一枚はないだろう。そのウェイトレスは、家族連れの注文に対し「メン類はバラバラに注文しないで。メン類は安いんだから、何種類も注文されると面倒なの。一グループ一種類にしてくれないと受けられないわけ」と言い放ち、それを聞いた山岡は「こんな店では何も食べちゃいけない、うまいとか、まずいとかいう以前の問題だ!」と席を立つ。「マスコミに取り上げられたくらいでいい気になって、客を粗末にするような人間の作る物は、食べる価値がないっ!!」という捨てゼリフには、激しく同意する。言うに事欠いて「面倒」って。どんな店でも、最低限のホスピタリティは必要だ。

 しかし、ホスピタリティが行き届きすぎているのもまた痛しかゆし。ホテルの立食パーティとかでは、まだ食べるつもりの皿をテーブルに置いたまま、お酒を取りに行って帰ってきたら、もう片付けられてるという事案が発生する。まったく油断も隙もありゃしない。『北の国から』の黒板五郎なら「まだ食ってる途中でしょうが」とキレるところだ。 

 フレンチやイタリアンのコースなら、一品ごとに別の皿に盛られて出てくるので、それは取り皿を交換するのとはちょっと違う。下げるときも、たいてい「こちらお下げしてよろしいですか」と確認してくれるのでありがたい。居酒屋なんかだと、まだちょっと残ってる皿を問答無用で下げられそうになって、「あ、それまだ食べます」と言ってしまうことがある。そこはやはり「こちらお下げしてよろしいですか」と聞いてほしい。

 居酒屋といえば、店によっては日本酒の銘柄が変わるたびに新しいお猪口に取り替えてくれることがあるが、あれもわざわざ替えなくてもと思う。なので、自分はだいたいいつも「そのままでいいです」と言うことにしている。 

 ワイングラスも、さすがに白から赤に替えたときは取り替えてほしいが、そうでなければ別に同じグラスでかまわない。こちとらソムリエじゃないんだから、そんな繊細な舌は持ち合わせていない。何を飲んでもだいたいうまいし、酔いが回ってくればなおさらだ。ワインの場合、複数の品種のブドウをブレンドして作ることもあるんだから、ちょっとぐらい混ざったって問題なし!

  その点、渋谷の某うなぎ屋は潔い。「冷酒の升グラスは銘柄が変わっても変更致しませんのでご了承ください」とメニューに明記してあるのだ。それなりにこだわりあるっぽい酒が置いてあるのに、このグラスへのこだわらなさが素晴らしい。串焼きがメインなので、取り皿もなし。「食べログ」の口コミで「取り皿をお願いしたが、出してもらえず」と書き込み、「接客は×」としている人がいたが、気取った高級店じゃないんだから、そこはそういう店として割り切ろうよ。接客自体は、すごく丁寧ではないにせよ、テキパキしていて気持ちいいと個人的には思っている。 

 どうしても取り皿を使いたければ、お通しで出てくる大根千切りの小皿を流用すればいい(取り皿としては小さいが)。それか、いっそのこと“マイ箸”みたいに“マイ取り皿”を持ち歩いてはどうか。ジップロックに入れておけば持ち帰りも大丈夫。このご時世、感染症対策としても安心だ。お店の人に変な目で見られるかもしれないが、取り皿にこだわる人にはおすすめしたい。

 

文:新保信長 

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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