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新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【13品目】取り皿問題

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」13品目


「食堂生まれ、外食育ち」の編集者・新保信長さんが、外食にまつわるアレコレを綴っていく好評の連載エッセイ。ただし、いわゆるグルメエッセイとは違って「味には基本的に言及しない」というのがミソ。外食ならではの出来事や人間模様について、実家の食堂の思い出も含めて語られるささやかなドラマの数々。いつかあの時の〝外食〟の時空間へーー。それでは【13品目】「取り皿問題」をご賞味あれ!


イラスト:おくやま ゆか

 

【13品目】取り皿問題

 

 さて、ここで問題です。取り皿を頻繁に交換してくれる店と、そうじゃない店――あなたはどちらが好きですか?

 アンケートを取ったら前者を支持する人が多そうな気がするが、私は後者のほうがいい。もちろん料理の種類にもよるけれど、大して汚れてもいない皿をいちいち取り替えられると、なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。ウチの近所の台湾料理の店もそうだが、中華系の店だと、取り皿が山積みになっていて使い放題だったりする。そこで遠慮なしに一品ごとに替える人を見ると気が気じゃなくなる。

 だって、それお店の人が洗うんでしょ? ムダに洗い物増やしてどうすんの? 大きい店なら洗い場専門の人がいるだろうけど、少人数で回してる店だと大変よ? 水資源のムダ遣いになるし、地球にも優しくない。いやまあ、自分も全然エコな人間ではないのだが、どうしても「もったいない!」と思ってしまうのだ。

 ところが、雑誌「Precious」のウェブ記事「和食、中華、ビュッフェでの『取り皿』のNGマナー12選」で、マナー講師がこんなふうに語っている。

 〈1回の食事で多彩なメニューを楽しめる中華料理では、一品ごとに取り皿を取り替えるようにしましょう。/「そんなに汚れていないから」「洗い物を増やさないように」などと余計な気を回して1枚を使い続けると、味が混じって本来のおいしさが損なわれてしまいます。そうなると、「最高の料理でおもてなしをしたい」というお店の人に対しても失礼に当たりかねません。/遠慮せずに、取り皿はどんどん交換するようにしましょう〉

 ええー、そうかなあ。そりゃ、棒棒鶏と酢豚みたいに温度も味付けも全然違う料理を同じ皿で食べるのはどうかと思うけど、似たような系統の料理、たとえば塩味ベースの炒め物同士とかなら別に同じ皿でいいんじゃないの? ていうか、エビチリ食べた皿に炒飯入れて食べたら、むしろうまいのでは? なんて思うのは育ちの悪い証拠だろうか。

 そういえば、グルメマンガの先駆け『美味しんぼ』(作/雁屋哲・画/花咲アキラ)に、取り皿で揉めるシーンがあった。横浜の中華街に出かけた山岡士郎、栗田ゆう子ほか東西新聞の面々は、行列のできる有名店に入る。注文したのは、アワビのゴマソース煮込み、車エビのチリソース、牛肉とニンニクの芽のいため物。料理が出てきて、みんなが食べようとしたところで山岡が「取り皿が足りないんだけど……」と言う。しかし、感じの悪いウェイトレスは「うちはみんな一人一枚でやってもらうことになってますから」と取りつく島なし。山岡は「何っ!? ゴマソースの物もチリソースの物も同じ皿で取れって言うのかっ!!」と激怒するのだった。

 

次のページいくらなんでも中華料理で一人一枚はないだろう・・・

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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