統一教会問題で「政教分離」という言葉が独り歩きしている危険な兆候【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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統一教会問題で「政教分離」という言葉が独り歩きしている危険な兆候【仲正昌樹】

「政教分離」という言葉を、理解しないままやたらと使いたがるお子様な人たち

■“反社”認定はお子様たちが思っているほど簡単な話ではない

 

 旧統一教会の場合、霊感商法問題と多額献金問題が“反社”扱いされている最大の理由だろう――反共とか、韓国生まれの宗教だからという理由で、“反社”扱いしている輩もいそうだが、そういうのは無視しよう。宗教団体がこうした問題を起こすことを防止するために、旧統一教会のケースをモデルにして、宗教法人法の改正やフランスの反カルト法に当たる法律を作ろう、というのであればいいのだが、いずれにしても、イメージだけで、“反社的な悪い宗教”を作り出さないよう細心の注意が必要だ。

 先ず、統一教会の信者でない人に壺や多宝塔など、“霊的”な商品を売る霊感商法と、信者による献金ははっきり分けて考える必要がある。

 前者の“霊的な商品販売”については、先祖の供養とか開運、魂の浄化といった名目で、宗教的な商品を売るということは統一教会系の専売特許ではなく、古くからある伝統的な宗教でも行われている。霊の話をしたからアウト、というわけにはいかないだろう。

 一部の統一教会の信徒がやっているように、霊的現象が起こっているかのような芝居をやってみせたりして、客を惑わせるのは明らかに詐欺だ。私が統一教会で活動していた当時、そういう本当の詐欺を働いている信者も実際にいるので嘆かわしい、という話を教会内の礼拝や講話で聞いた記憶がある。

 ただ、これを言うと、また「マインド・コントロールが解けていない!」と言われそうだが、多宝塔、壺、印鑑など霊的なものに纏わる販売の全てが、そういう意味での詐欺というわけではない。自分たちは統一教会の信仰を持っているとはっきり言ったうえで、それらの事物を売っていた信者も、統一教会と分かったうえで買った人もいる。値段も、壺に関してはかなり幅があるようで、低い場合は、私の知る限り、40万円くらいの場合もあった。

 どういう風に説明して、どれくらいの値段で売ったら、反社会的と言えるほど悪質なのか、一概に決めるのは難しい。刑事事件に発展し、有罪が確定したものにだけ限って、話をすれば、かなり焦点は絞り込めそうだが、その団体の信者の何人、あるいは何割が有罪判決を受けたら、“反社認定”するのか。“宗教団体”なんだから、一人でも犯罪者を出したら、即アウトで“反社”と言いたい人もいるだろうが、そんな“厳しい基準”を設定すれば、統一教会だけでなく、多くの宗教団体がアウトになってしまうし、宗教弾圧の口実がいくらでも作れてしまう。犯罪には、道路交通法違反、不用意にカッター・ナイフを持ち歩いたことによる銃刀法違反、修業や祭事に際してのトラブルから発生した暴行・傷害のようなものなど、いろいろある。どういう種類の犯罪をカウントするのか。

 ちゃんとした基準を定めるのが難しいので、法律をいじらない方がいい、と言いたいわけではない。お子様たちが思っているほど、簡単な話ではないということだ。

 高額献金の場合は、もっと話が難しい。本人が信仰を持っていたのであれば、それを禁止するのは信教の自由に反するだろう。扶養家族がいる人の献金額を限定するというようなことは可能かもしれないが、全面禁止は難しいだろう。

 「そんな献金は、マインド・コントロールを受けたことによるものなので、無効だ!」、と言う人もいるが、「マインド・コントロール」を、法廷で通用するような明確な基準で定義するのは難しい。より多くの犠牲を捧げるほど、試練を乗り越え、救いに近付けると信じている人もいる。下手に定義すれば、特定の宗教を“信じている”人は全てマインド・コントロールされていることになり、責任能力を一切否定されることになりかねない。第三者的に見れば不条理だが、本人にとっては、それが救いになっていることもあるのだ。

 「信仰するほど、自分を追い込むことになってしまう教えはおかしい。そんなのはマインド・コントロールだ」、と感じる人が多いとしても、多数決でマインド・コントロールかどうか決めるわけにはいかない。

 「マインド・コントロール」に明確な定義などない。ネット上で、「カルト!」「カルト!」と一日中吠えている連中は、ドラマに出てくるような、文字通り、思考停止していて、教祖の指示があるまで、機械的な運動を自動的に繰り返す人間を連想しているようだが、そんなものは、彼らの脳内にしか存在しない。反カルト言動を唯一の生きがいにしている依存症の連中は、自分が気に入らないものは、何でも「マインド・コントロール」と言って片付けようとする。こういう連中にとっては、「信教の自由」だけでなく、「言論の自由」も無意味だろう。「マインド・コントロールされている」と彼らの直観で認定された者は、一人前の人格として扱われないのだから。

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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