新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【8品目】出前とデリバリー今昔物語
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」8品目
「食堂生まれ、外食育ち」の編集者・新保信長さんが、外食にまつわるアレコレを綴っていく好評の連載エッセイ。ただし、いわゆるグルメエッセイとは違って「味には基本的に言及しない」というのがミソ。外食ならではの出来事や人間模様について、実家の食堂の思い出も含めて語られるささやかなドラマの数々。いつかあの時の〝外食〟の時空間へ、あなたをタイムスリップさせてしまうかも・・・。それでは【8品目】「出前とデリバリー今昔物語」をどうぞ!
【8品目】出前とデリバリー今昔物語
食べ物を媒介に男女や家族の機微を描いたオムニバスショート形式のマンガ『おいピータン!!』(作:伊藤理佐)に「出前」と題されたエピソードがある。自分の家では出前を取ったことがないという女性が、よその家の玄関先に置かれた出前の器を見て、ふと思う。「ああいう出前ってどういう時にとるの?」「お母さんが急病?」「一人暮らしのおじいさん?」「お客サマ?/お客サマには手料理じゃないとさびしくない?」。アレコレ想像するが答えは出ない。「出前ってどういう時にとるの?」と彼氏に聞いても、「うちも田舎だったから出前じたいがなかったなー」という。
そんな彼女が、とある事情で初めての出前を経験することになり、「…ああ そうか/こういう時に出前をとるのか」と納得する。その顚末は各自ご確認いただくとして(単行本16巻に収録されています)、私が思ったのは「そうか、出前を取ったことがない人って結構いるのかも?」ということだった。
そこで、試しにツイッターでアンケートを取ってみた。たまたま質問ツイートを見て答えた人だけの数字なので統計的には無意味だが、大まかな傾向を反映してはいると思う(回答者数416人)。「(宅配ピザとかウーバーイーツとかではなく昔ながらの)出前って取ったことありますか?」という設問で、選択肢と結果は次のとおり。
①実家で取ったことあるが、自分では取ったことない。……46.6%
②実家では取ったことないが、自分ではある。……7.2%
③実家でも自分でも、取ったことある。……34.4%
④実家でも自分でも、取ったことない。……11.8%
つまり、④の11.8%の人はまったくの出前未体験で、①と合わせた6割弱の人が自分では取ったことがないのである。予想以上に多いと感じたが、皆さんはどうでしょう?
かく言う私も、実家では出前を取ったことがない。そりゃまあ、出前を持っていく側だったんだから当然と言えば当然だが、東京に来て一人暮らしを始めてからも長らく機会がなかった。ウチの食堂もそうだったけど、出前は2品以上からというのが一般的だ。基本的に少食なので、一人で2品は食べられない。学生時代はお金もなかったし、会社員時代は出前をやってるような店が開いてる時間に帰れることがまずなかった。
そんなわけで、初めて出前を取ったのはフリーになって何年かして、お金と時間に多少余裕ができた頃である。家で仕事をすることも多く、食事のために着替えて外出するのが面倒くさくて、近所の寿司屋から出前を取った。その店は2品からではなく「○○円以上」と金額で区切っていたので、ちょっとお高めのやつを頼めば1品でも持ってきてくれたのだ。量的に1.5人前ぐらいあった気がするが、寿司なら食べられる。
注文の電話(まだインターネットはない)から30分ほどして寿司は届いた。缶ビールを開けて、さあ食べよう――と思ったところで「ん?」となる。おいおい、勘弁してくださいよ。しょうゆが付いてないじゃないですか……。
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