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【新連載エッセィ】森博嗣「静かに生きて考える」第6回

第6回 思いどおりになる楽しさ


BEST TIMES人気連載だった森博嗣先生の「道なき未知 Uncharted Unknown。同タイトルで書籍化されて早5年。不可解な時代を生き抜く智恵の書としていまもロングセラーだ。新型コロナ感染の流行、ロシアのウクライナ侵攻、格差の広がりやポリコレ騒ぎ・・・時代はさらに不確実で不安定になってきた。再び、森先生のお話を静かに聴いてみたい。浮き足立つ時代に必要な「生きる構え」を知るために・・・。あたらしい連載エッセィの第6回。


 

第6回 思いどおりになる楽しさ

 

【毎日、楽しいことばかりで大変】

 

 あまり、楽しい楽しいといわないようにしているのだが、我慢をしていても漏れ出てしまうかもしれない。前回は、ちょっとウェットな雰囲気だったので、もう少し現実に寄り戻してみよう。今日は、一人で6時間ほどのロングドライブに出かけた。奥様(あえて敬称)も犬も乗せていない。奥様も犬も長時間つき合わせるのは酷というもの。一人の方が気楽だし、もちろん楽しめる。以前から計画し、根回しもしてあるので、気持ち良く出発できた。

 ドライブである。しかも、かなり古い車なので、いつ故障して動かなくなるかわからない。動かないくらいならまだ良い。走行中の不具合で事故になって、怪我をしたり死んでしまう可能性もあるだろう。そうなった場合の対処も考えておいての出発である。

 それにしても、気持ちの良い季節だ。山や野は新緑で輝き、空は青く澄み渡っている。花々でカラフルになった一帯も綺麗。だが、それよりも、軽快なエンジン音が一番嬉しかった。部品を交換したり、調整をした結果である。手を入れて、修理をして、機械が自分の思いどおりに機能することが、人に喜びを感じさせるのは、やはり、「自分の思いどおり」という「自由」の定義と一致している。満たされた気持ちになるのは、自由を感じるときだ。

 模型飛行機を飛ばすときも、これと似ている。ほんの少し、形を修正するだけで、飛ばしてみると覿面に効果が現れる。自分が予測したとおりになった、という満足を味わえる。この繰り返しが面白くてやめられない。

 

【予測が当たる楽しさ】

 

 たとえば、飛行機や自動車のボディの色や模様を変えても、性能に影響はない。そういったものは「デザイン」ではない。機能を改善する試みこそがデザインなのだ。これは、人生デザイン(つまり人生設計)でも同様。色や模様を変えるようなファッションではない。

 幼い子供が、「いないいないばあ」で笑うのは、もうすぐまた顔が現れることを知っていて、自分が思ったとおりになったからだ。僕の犬も、僕の行動を逐一観察していて、先回りをしようとする。予測どおりになると唸って喜ぶ。「思ったとおりだ!」という感動こそ、動物の喜びの根源といえるだろう。

 未来というのは、予測が不可能なものだが、それでも、自分一人でなにかを作るときに限れば、自力によって予測したものが実現する。不可能への挑戦に類似した成功体験こそが「楽しい」という感情につながるのだろう、きっと。

 逆にいえば、多数の人間に関わる社会のシステムは、自分一人の力ではなんともならない。こうした方が良い、この方向へ努力すればきっと成功する、といくら考えても、大勢の賛同が得られ、多数が協力し合わなければ、思いどおりにはならない。

 多くの人は、自分の思ったとおりにはならない、という不満を抱えているはず。いらついている人もいるだろう。こうなってほしいと願っても、そうはならないのが普通だ。世の中、辛いことばかりだと嘆いている。ネットは、そんな呟きでいっぱいである。

 もっと良い暮らしがしたい。もっと好きなことに時間を使いたい。愛に満ちた他者が自分の傍らにいてほしい。だが、思いどおりにはならない。したがって、自由が感じられない。不自由になる。不満ばかりが募る。

 でも、それらの根本的な原因は、自分以外の人に期待している点にある。自分だけではできないこと、すなわち、自分一人では不可能なことなのだ。まず、これを理解するべきだろう。そして、他者に期待しすぎない、というちょっとした認識と注意で、この不満から逃れることができる。

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森博嗣

もり ひろし

1957年、愛知県生まれ。小説家、工学博士。某国立大学工学部助教授として勤務する傍ら、96年『すべてがFになる』で第一回メフィスト賞を受賞し、作家デビュー。以後『イナイ×イナイ』から始まるXシリーズや『スカイ・クロラ』など多くの作品を執筆し、人気を博している。ほかにも『工作少年の日々』『科学的とはどういう意味か』『孤独の価値』『本質を見通す100の講義』『作家の収支』『道なき未知』『アンチ整理術 Anti-Organizing Life』など著書多数。SF小説の最新刊『リアルの私はどこにいる? Where Am I on the Real Side?』が4月15日に発売。

 

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