Scene.26 ようこそ、本屋へ! ようこそ! |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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Scene.26 ようこそ、本屋へ! ようこそ!

高円寺文庫センター物語㉖

そんな彼が、後輩に文庫センターの担当が移っても来店してくれたのは、99年刊の「バトル・ロワイアル」を、いかに文庫センターが多く販売してきたかとリスペクトして映画の封切直前でも来てくれたのである。

「店長が、既に在庫を十分持たれたことも報告を受けています。弊社としては、さらに直納体制でお応えできるようにしているのでご安心ください」

「中学生同士が殺し合う原作で、発売当時でもヤバかったじゃん。

今度の映画化は、深作欣二監督に藤原竜也とビートたけし出演で話題性が十分なうえに、青少年に与える影響は! なんちゃって、国会で取り上げられたからサブカルの枠を越えて注目度アップだもんね」

「そうなんですよ、封切前から盛り上がってますでしょ。今後は重版の重ね方なので、文庫センターさんプラス主要書店となりますが、売行き調査をお願いしますね。

そろそろ社に戻りますので、サイン会はよろしくお願いします」

「ラジャっす!

いろいろ問題になった本だけどさ、ぜひ多くのお客さんに読んでもらいたいから店に置くんだもん」

 

「あれ、店長。なんでハンバーグ屋で、天麩羅うどんなの?!」

「大原さんね、殿は特別なの。スペシャル!

みんなして毎日来てくれる高円寺文庫は、豪華裏メニューなのよ」

「すいません、ママさん。知らなかったの」

「てか、大原さんがなんでニューバーグですか?」

「安いでしょ、食費削っても本代! 

フリーは、きついご時世になってきたでしょ。店長がおススメの『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』は、一万円もするんだものねぇ・・・・

いま、本の購入金額MAX5000円なのよ。あちこち節約してでも、手元に置いておきたい写真集だと思うの」

「そうです、そうなんですよ。

本の後記で、都築さん『日本でいちばん役に立たない、重くて高いガイドブックで買うのは奇怪な人くらい』なんて書いていますけどね。

奇特って、書いて欲しかったな! 売り続ける本屋も、買いたくてしょうがないお客さんだっているんですもんね」

「パラパラって立ち読みした中に、TVの旅番組のヤラセというか仕込みというか欺瞞を嗤う文章に魅せられたわ。

それに私も取材で地方都市に行くでしょ、駅降りた周囲なんて廃墟一歩手前なのよ」

「ですよ! 地方の文化を支えて、中心でもあった老舗書店が廃れる一方ですって。新興書店が国道沿いに出店したり、郊外型商業施設にもでしょ。

地方の文化を画一的にさせて、大都市一極集中って限界集落にも思い至りますが、国としてヤバくないですか?」

1万円の価値ある迫力の写真集。都築さん曰く『美しくない日本。品のない日本』をポジティブに受け入れることができれば『人生はずっと楽しくなる』

「日本人が作り上げ守り抜いてきた、金閣寺や奈良の大仏に姫路城と世界的にも文化価値が高い建造物が数多あれど、一生のうち何度と観に行くものなのかしら?

珍寺や秘宝館に廃墟って、物好きじゃないと行かないわよね。人知れず存在して、人知れず消え去って行く諸々へ寄せる都築さんの視線って平易な哲学なのよ」

「殿、大原さん。そろそろ、マスターに夕方のお昼寝させたいんだけど、いい?!」

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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