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Scene.22 本屋って! 素敵じゃないか。

高円寺文庫センター物語㉒

「店長、クロちゃんが虚ろなのね! ここは男子担当だと思うので・・・・タッチ!」

「クロ~おまえ、お尻半出しジーンズ短パンに、谷間丸見えのノーブラTシャツに遭遇したんだろ?!

毎年その程度で動揺して、文庫センターのバイトが務まるかっての」

「石鹸の香り漂う、チョコボールなんとかさんの肉体美とか、お釣りを渡すときに触れるAV男優さんの手のぽっちゃ柔らかさには慣れましたよ。

でも、あの女優さんは刺激が強すぎますよ!」

「ま、確かにな。おいちゃんでも、クラクラくるわ(笑)

阿波踊りと並ぶ、夏の高円寺の風物詩と前向きに受け入れなよ!」

 

「はい、みんな。

ワープロで、ちゃんとレジュメを作ってきたからさ。これに沿って『文庫センター的史上最大の作戦』ブリーフィングな!」

「またもぉ、戦争映画のタイトルパクりばい。ここは、『忌野清志郎握手会』でよかと」

「あは。内山さん、クールですねぇ!」

「なんばい、りえちゃん! みんなとは、清志郎さんへの思い入れが違うんよ」

「りえさんも、内山さんも冷静にしてください。とにかく、店長のプランを聞きましょうよ」

野球で言えばまだまだ勝ちゲームだが、ここらで追加点が欲しい頃だった。みんなの念願だった清志郎さんの握手会が決まり、いまだかつてない重要なミーティングが四丁目カフェで行われようとしていた。

オーダーが来るまでの雑談を、さわっちょが締めてくれたところにシェフの高井さん自らコーヒーなどを運んで来てくれた。

「いっらっしゃい!

相変わらず賑やかですが、清志郎さんの握手会の打ち合わせですか? りえちゃんから聞いているので、ポスターでもフライヤーでも預かりますよ!」

高円寺の人々は、温かく優しい。飲食店をはじめ、レンタルビデオ店やライブハウスにまで協力して貰えるPR体制の嚆矢となった!

「ひとつ。清志郎さんの、入りからの流れはこれね。

ひとつ。限定250名のお客さんを、待機させて入場から退出の流れはこれね。

ひとつ。そのお客さんのケアと、外の野次馬や店内のスタッフ配置はこれね。

ひとつ。バイト総動員以外の、版元さん達のスタッフ要請はこれね。

ラスト。混乱予防に、杉並警察への届け出はこれね。

以上。練りに練ったから完璧だと思うんだけどさ、意見あれば言って!」

「最高っす。問題は、版元さんの助っ人が10人も集められるかばい・・・・」

「うん。これまでの付き合いが、商売だけだったかどうかって感じだよな!

とにかく、清志郎さんの事務所にOKいただいたんだからさ。ここは、緻密なプランを練り上げて『懐疑者のごとく疑い、信者のごとく行動せよ』だぜ!」

 

2000年8月24日木曜日、忘れ難い一日になった。

午前中は、眠ったような街の高円寺でスローバラードが流れているようなのに。この日は、違った!

店開けるぜって、シャッターを開けたらジャーン! 今日・明日・明後日とTHE BEATLES の A Hard Day’s Night が、流れ出した!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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