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新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【3品目】おでん定食というギャンブル

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」3品目

  ドーチカ以外でちょいちょい行ったのが、阪神百貨店の地下である。地下ばっかりで恐縮だが、大阪・梅田は地下街が異常に発達しているのでしょうがない。複雑怪奇な構造は「梅田地下ダンジョン」とも呼ばれるほど。ドーチカはそのタコ足のように広がったダンジョンの南端に当たる。

 ドーチカから阪神百貨店まではもちろん地下だけを通って行ける。当時の阪神百貨店は地下にフードコート的な飲食店街「スナックパーク」があり(今も店は入れ替わり規模も縮小されているがあることはある)、そこのおでん屋でおでん定食をよく食べた。おでん3品にごはんとみそ汁、たくわん。正確な値段は忘れたが、確か400円とか450円とかそのぐらいの良心価格だった。千円札で500円以上おつりがくる。

 ただ、ここで問題なのは、おでん3品は基本お任せで自分では選べないという点だ。人それぞれ、自分の中に「好きなおでんの具ランキング」があるだろう。ネットで検索してみると、いくつものランキングが出てくる。3位以下はバラけるが、どのランキングを見てもだいたい大根と玉子がツートップだ。私もご多分に漏れず、大根と玉子は大好き。ジャガイモやコンニャクもいい。嫌いなわけではないが、積極的に食べたいと思わないのがチクワやゴボ天などの練り物系。今は好きだが子供の頃は豆腐も興味がなかった。

 しかし、どの3品が出てくるかは運任せ。店側もある程度バランスを考えるから、練り物ばっかりということはないが、大根、玉子、ジャガイモなんていう大当たりはまず出ない。その3品のうちのひとつでも入っていればまだいいとして、チクワ、厚揚げ、昆布巻きとかだとガッカリする。せめて昆布巻きをコンニャクに交換してくれないか……。

 今にして思えば、注文時に「大根入れて」と1品指定ぐらいはできたのかもしれないが、子供にその発想はなかった。なので、毎回「何が出るかな、何が出るかな」とドキドキだったけれど、それはそれで駄菓子屋のくじにも似たちょっとしたギャンブル気分を楽しめたのだ。

 酒呑みの大人となってしまった今では、おでんはおかずというよりつまみである。それでも好きな具はあまり変わらない。逆に、子供の頃は嫌いというか食べられなかったのに、大人になって好きになったのがコロ(クジラの皮)である。東京ではあまり見かけないが、大阪ではそこそこポピュラーな具材だった。初めて食べたときの感想は「ゴムタイヤか!」。いや、ゴムタイヤを食べたことはないけれど、あの独特の食感と臭みは大人でも好き嫌いが分かれそうだ。昨今は高級食材の部類かもしれないが、機会があればぜひ一度お試しあれ。

 当たりかハズレかは、あなた次第。

 

 文:新保信長

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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