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弘中弁護士も危惧する「侮辱罪の厳罰化」は「言論の自由」を脅かす【篁五郎】

大石あき子代議士を名誉毀損で訴えた橋下徹氏

■ワンリツイートを名誉毀損で訴えた橋下徹が勝訴

 

 他にも権力者や著名人が批判を誹謗中傷のようだと騒いだ例はいくつもある。今回大石あき子代議士を名誉毀損で訴えた橋下徹氏だ。彼は、2017年にジャーナリストの岩上安身氏が、「(橋下氏が府知事時代に)府の幹部たちに生意気な口をきき、自殺に追い込んだ」という第三者のツイートをリツイートしただけで名誉毀損で訴えた。また、有田芳生参議院議員が橋下氏が情報番組に1回だけ出演して降板させられたと投稿したことに対して削除要請もなく提訴をしてきた

 岩上氏との裁判は橋下氏の勝訴、有田議員との裁判は橋下氏が敗訴という結果に終わったが、こうしたインターネット上でのやり取りで民事訴訟をしてくる人間が行政のトップにいたのだ。因みに維新の会の松井一郎大阪市長も橋下氏と同じ考えである。水道橋博士が松井市長の疑惑が説明された動画をTwitterに投稿するといきなり「法的措置を取る」とツイートしてきた。他にも「法的措置を取る」と投稿している。

 大阪府知事で維新の会副代表の吉村洋文氏は、反社会的な取り立てや業務の違法性などを指摘するメディアに対し、訴訟を連発した武富士の弁護団にいた人物だ。

 また、維新の会所属で前国会議員の山之内毅氏に至っては侮辱罪の罰則強化が閣議決定されたその日にTwitterで「今日SNSの侮辱罪が厳罰化されたから今後気をつけな」などと投稿していた。安倍元首相、松井市長、吉村大阪府知事、三原参議院議員、山之内氏の振る舞いを見れば、批判的言辞に対して「侮辱だ」と恫喝をかけてくることは目に見えている。

 もし彼らが侮辱罪を乱用し、刑事告訴を繰り返しても検察が起訴しなければ問題はない。しかし、その検察も頼りにならないのが現状だ。「桜を見る会」の前日夜に開催された懇親会をめぐり、安倍元首相側が費用の一部を負担したのは有権者への違法な寄付で公職選挙法に違反する疑いがあると刑事告発された件を検察は不起訴とした。

 森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざん問題で、当時の佐川理財局長等が有印公文書変造・同行使などの疑いで刑事告発された。しかし検察は不起訴処分とした。検察審査会では「不起訴不当」と議決したものの再捜査で「立件が困難」という理由で再び不起訴とした。

 権力者と一線を画して法の正義を守るのが検察の務めだが、明らかに権力者側にすり寄っている。恐らく理由はキャリア官僚の人事が内閣に握られたからだろう。

 内閣官房には内閣人事局という部署がある。この部署は人事600人を取り扱っている。表向きは縦割り行政を打破して官邸のリーダーシップを強化する狙いだそうだが、そのせいでキャリア官僚は官邸のご機嫌取りに走った。その象徴が森友学園問題である。

 一方、ロシアでは国営放送で反戦を訴えた女性キャスターが、拘束されて警察で取り調べを受け、3万ルーブル(約3万3000円)の罰金刑が科された。明らかな言論弾圧である。

 弘中弁護士は最悪の事態として侮辱罪による言論の封じ込めが起きるかもしれないと危惧をしていた。もしかしたら日本でも、政権批判や著名人の言動に物申したら警察がやって来る日がやってくるかもしれない。橋下氏による大石代議士への名誉毀損の民事裁判と併せて、侮辱罪の罰則強化への流れは注視する必要があるだろう。

 

文:篁五郎

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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