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三浦知良がキングの椅子から降りるときが来たかもしれない二つの理由

 メディアが取り上げることで現役選手としての悔いが残り、辞めるためのきっかけが掴めずにズルズルと続けていることになっているかもしれないのではないか? もしそうならば、この状況がカズにとって、そしてサッカー界全体のために良いことなのだろうか?

 筆者はそうは思わない。どちらかといえばセルジオ越後氏の意見に賛成である。サッカー界全体をみれば、カズは現役選手ではなくプロクラブの指導者に回るなり、セルジオ氏のように全国サッカー教室を開いてサッカーの楽しさを子ども達に伝える役割を担ったほうがいいと考える。もちろん、カズ本人が現役選手でいたいと思うのは自由だからこちらの考えを押しつけるのは良くない。カズ本人が描く姿で最後の決断をするのが一番だろう。

 しかしながらカズが今年下した決断が、現役選手としての道を終わらせる事になるのかもしれないのだ。

 ご存じのようにカズは、今年からJFLの鈴鹿ポイントゲッターズへレンタル移籍が決まった。出場機会を求めての移籍だという。やはりセルジオ氏から指摘された「選手は試合に出てなんぼ」という考えに触発されたのかもしれない。JFLは4部相当なのでカテゴリーを下げたならば、橫浜FCに残るよりも出場機会は増えるかもしれない。しかもGM兼監督は実兄の泰年氏が務めている。最初の頃はマスコミも注目しているだろうから試合に出る機会が巡ってくる可能性はある。

 筆者はそこに落とし穴があると思っている。JFLはJ1同様全34試合を戦う長丁場である。53歳のカズが試合に出続けながらコンディションを保つのは難しい。しかも最後に得点を挙げた2017年以降、出場試合数は軒並み一桁である。何年も連続して試合に出場していなければ、コンディションを保つのは困難を極めるだろう。気力だけで乗り越えられるとは思えない。ましてカテゴリーが下がればプレイはラフになりがちだ。J1ならテクニックのある選手はファウルをしなくても止められるが、レベルが下がればわざとファウルをして止めてくる選手が出てくる。もし、試合中に起きたファウルでケガでもしたらと思うと怖くて仕方ない。

 もう一つの懸念材料はJFLの環境である。橫浜FCはJ1のクラブであるからサッカーをする環境というのは整っている。専用の練習場を備えており、クラブハウスも完備。練習場は天然芝で足腰にも優しいし、照明も明るく日が暮れても練習ができる。クラブハウスにはトレーナーがいて、メディカル面でもサポートも万全だ。しかしJFLにはどれも揃っていない。そもそも専用の練習場なんか持っていない。毎回練習場が変わるし、練習に使う荷物も全部自分で管理しないといけない。クラブハウスなんてもちろんあるわけない。だからトレーナーなんていないところもある。カズが行く鈴鹿ポイントゲッターズは、トレーナーは在籍しているがたった一人である。他の選手もマッサージや治療が必要になるから、カズ一人だけをみられるわけではない。コンディション調整をするのにも今までと勝手が違うのである。

 試合会場もJ1やJ2のように芝の手入れが行き届いているわけではない。会場によっては、芝がはげてしまって土が剥き出しのグランドで試合をしなくてはいけない。そんなコンディションの場で試合をするのは、体にかなりの負担がかかるはずだ。カズほどのキャリアならば、そんなグランドでの試合はブラジルやJリーグ創設前に経験があるかもしれない。しかし年齢が当時と明らかに違う。回復力も対応力も格段に下がってくるはずだ。

 だからこそ少しでも調整に失敗したり、アクシデントによって現役選手としての道が絶たれるかもしれないのだ。

 カズはそんなことをわかって移籍したのかもしれない。そんな環境の中でも選手として挑む姿は美しいのかもしれない。

 しかしカズに自分の思いを乗せて応援している人達は、彼をみる前に己を振り返ってほしい。「カズほどストイックな姿勢で生きているのか?」と。そうやってカズに思いを乗せている余裕があるならば、彼のように自分の好きなことをやるために思い切りストイックに努力をしてみたらいいだろう。どれだけキツいのか、どれだけつらいのか身をもって体験できるだろう。そしてマスメディアはいつまでもカズに依存せずにサッカーの記事を書いてもらいたい。

 筆者はカズが今シーズンをケガなく乗り切ることを祈っている。

 

 

文:篁五郎

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾にて保守思想を学び、個人でも勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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