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オミクロンのもとで社会の基盤が揺らぐ構造【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」38

 ◆合理的選択、または苦肉の策

 

 このような状況を受けて持ち上がったのが、濃厚接触者をはじめとする隔離期間の短縮。

 従来の期間は以下の通り。

 

(1)濃厚接触者・・・接触日から14日間

(2)無症状者・・・検体採取日から10日間

(3)発症者・・・発症日から10日間、かつ症状軽快後3日間

 

 しかるにオミクロンの場合、潜伏期間と症状の出ている期間が、ともに短い傾向がある。

 沖縄県の新型コロナ対策本部医療コーディネーター・佐々木秀章いわく。

 

 【それに即した(隔離)期間短縮を国の方でも考えてもらえれば。(今のままでは)医療、介護が共倒れみたいな状況になりかねない】(最初のカッコは原文)

 

 後藤茂之厚労相は12日、医療従事者については、毎日検査を行うことで濃厚接触者であっても勤務できるという見解を表明しましたが、それでも足りないようなのです。

 だいたい、医療さえ逼迫しなければよいわけではありません。

 

 全国知事会も12日、濃厚接触者の隔離期間短縮を政府に緊急提言。

 岸田総理も13日、次のように述べました。

 

 【濃厚接触者のこの隔離期間等についても、必要に応じて対応していくことも考え、柔軟な対応を引き続き検討していきたい】

 

 こうして14日、隔離期間を10日に短縮する方針が打ち出されます。

 エッセンシャルワーカーの場合、6日目に検査を行って陰性なら、自治体判断で隔離を解除できるとのこと。

 

 隔離によって活動できなくなる人が急速に増えれば、医療も立ちゆかないし、経済も回らない。

 佐々木コーディネーターの表現にならえば、感染対策と経済対策の共倒れです。

 そのかぎりにおいて、隔離期間短縮は合理的な選択。

 

 ただしオミクロンについて、潜伏期間がつねに10日以内かどうかは分かりません。

 短縮の結果、感染拡大が促進されるリスクも存在します。

 わけてもエッセンシャルワーカーが気になるところ。

 

 のみならず。

 医療や社会経済活動を維持するため、濃厚接触者の隔離期間を短縮するという発想は、「誰が濃厚接触者にあたるのか(保健所が)把握できている」ことが大前提です。

 ところが那覇市の現実はかくのごとし。

 

 【できるだけ早く多くの新規陽性者に連絡をとり、それぞれの濃厚接触者に外出自粛等の感染予防行動を迅速にとっていただくことを最優先とするための措置として、那覇市保健所の積極的疫学調査は、次のように実施することといたします】

 【濃厚接触者については、新規陽性者(=感染者)ご自身でどなたがこれに該当するかをご判断いただき、該当する方々には外出自粛などの感染予防行動を迅速にとっていただくよう(、)新規陽性者ご自身からお伝えしていただきます】

 

 すでに大前提が崩れているのですよ!

 那覇市が濃厚接触者を追跡できなくなったのは1月9日でしたが、京都府、および京都市も、ほどなくして同じ状態に追い込まれます。

 1月19日には東京都もそうなりました。

 

 それどころか「誰が新規陽性者か」という点すら、感染の急拡大が続けば把握できなくなってくる恐れが強い。

 新型コロナに感染しているかどうかは検査によって判定しますので、検査能力の限界を超えて陽性者を見つけることはできないのです。

 

 厚労省によると、2022112日の時点における検査能力は一日に385000件あまり。

 ただしこれは、385000人までなら大丈夫ということを意味しません。

 検査陽性率(1日あたりの検査数にたいする新規陽性者の比率)が高くなってゆけばゆくほど、検査不足で陽性者を見落としているリスクが高まります。

 WHOの推奨する陽性率は5%未満。

 

 すると新規陽性者が1日あたり19000人を超えたあたりで、見落としが始まる計算に。

 2022年1月15日、全国の新規感染者は25000人を超えます。

 一週間後の22日には5万人を突破。

 抗原検査についても、検査キット不足が伝えられるにいたりました。

 

 見つけられない感染者について、濃厚接触者を把握するなど無理に決まっている。

 ついでに最近は、感染が判明すると面倒だからとばかり、発熱などの症状が出ていてもPCR検査を拒否する人もいるとのこと。

 隔離期間の短縮も、こうなると合理的選択というより、追い込まれたあげくの苦肉の策に見えてくるではありませんか。

 

 恐るるに足らなかったはずのオミクロンで、ここまで深刻な事態が生じるとなると、コロナにたいするわれわれの認識を、あらためて問い直さねばなりません。

 感染者の増加を抑え込まないことには、何も始まらないという基本に立ち戻るのです。

 

 ここで注目したいのが岩手県。

 岩手は2020年、全都道府県で最も長く感染者ゼロを維持したうえ、今も1週間の人口10万人あたり感染者数が最も少ない県の一つ。

 1月23日現在では、ずばり最少です。

 

 というわけで、同県の達増拓也知事のツイートを紹介しましょう。

 ぜひクリックしてご覧下さい。

 

文:佐藤健志

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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