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【宮台真司】なぜ日本では夫婦の「セックスレス」が増加し続けているのか?

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第6回〉

■「リスク回避」と「めまい回避」という背景

 

 理由の第二は、「草食化」と呼ばれる傾向。「自分には性欲がない」と自己申告するタイプの男子たちを言います。よく覚えているんですけど、1990年に「性欲がない」という男子学生たちがキャンパスに陸続と出てきたんですね。

 最初は東大の医学部生との立ち話でした。「雑魚寝しても何もない」と言うんで、「んな訳ねえだろ。雑魚寝したら、とりあえず『する?』みたいに尋ねなきゃ、失礼じゃないか」と言ったら、「はあ? そんな訳ないじゃないですか」と周囲の学生たちが続々参戦(笑)。

 哺乳類の多くの種で精子が減少している昨今なので、社会学的な理由以前のものがあるかもしれません。ここでは「草食化」の理由をあえて社会学的に推定するとしますと、コミュニケーションの失敗を事前に取り除く「リスク回避」が考えられます。

「リスク回避」の背景に、コミュニケーションが「肝胆相照(かんたんあいて)らすもの」から「場つなぎ的なもの」にシフトしてきた、という経緯があります。その結果、コミュニケーションの失敗が、かつてよりも過大に受け止められるようになったんですね。

 さて「草食化」の、もう一つの社会学的背景が、「めまいの回避」です。めまいは、僕のワークショップでは「変性意識状態」と呼んでいて、性愛のキーだと告げています。若い人たちは、これを結構嫌がるんですよ。忘我の状態を避けたがる、ということです。

 セックスの醍醐味って何だと思いますか? めまいです。我を忘れること。僕の言葉で言えば〈ここ〉から〈ここではないどこか〉に出かけること。ハイデガーの脱目(エクスタシス)。フロイトがエロスとタナトスの近さを語ったことにも、関連します。

 そう。人は、現実を忘れるために、セックスをするんです。ところが、昨今の若い人たちは「リア充」とか言うでしょう。馬鹿じゃねえの? リアルというクソから逃避するために、セックスするに決まってるだろ。何考えてんだ、ボケ!

 

■セックスで確からしくなるホームベース

 

 という次第で、むしろ若い夫婦がセックスレス化しやすい状況にあることは、間違いないでしょう。日本の常識である夫婦のセックスレスは、世界の非常識です。でも、世界の常識のほうがいい、と単に言いたいわけでもない。

 セックスレスでもかまわないのなら、勝手にすりゃいい。でも『「絶望の時代」の希望の恋愛学』でも強調したように、それは「めまい」と「ゆだね」から遠ざかること。究極の「めまい」と「ゆだね」を引き寄せたければ、セックスという選択肢を手放さないほうがいい。

 だったら夫婦のセックスレスをどうにかしたいって? そう思うのなら、夫婦の時空間を無理にでも作って、夫婦中心主義を意識的に自分たち家族にインストールして下さい。忙しい? そんなの理由にならないぜ。僕だって忙しいよ(笑)。

 そしてもう一つ若い人たちに。意識的に作り上げたそうした時空間は「ツラい現実から逃避するためのホーム」です。「めまい」と「ゆだね」に彩られたホーム。それがあればこその絆。セックスを回避してそれを作るのは本当に大変だよ。まぁ好きにすりゃいいさ。

 

文:宮台真司

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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