「イスラーム世界の価値観や行動原理は西欧的なものと全く異なっている」とまず認識せよ【中田考×平川克美】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「イスラーム世界の価値観や行動原理は西欧的なものと全く異なっている」とまず認識せよ【中田考×平川克美】

「隣町珈琲」中田考新刊記念&アフガン人道支援チャリティ講演〈平川克美氏との特別対談〉

 

■チャンスを活かせなかったヨーロッパ、活かしたロシアと中国

 

平川:アフガニスタンには全く産業がない上、欧米から経済封鎖されているわけですよね。中国が援助を始めていますが、中国は多分いろんな思惑があってすり寄ってきているわけで、これからのアフガニスタンは大変ですよね。

 

中田:その通り、大変なんです。まず中国が先行していますが、ロシアもかなり入ってきています。『タリバン 復権の真実』にも書きましたが、一番最初にタリバンと交渉した外国は、実は日本なんです。我々を含めた同志社大学が2012年に招いたのが初めてですね。

 当時もタリバンはテロ組織に認定されていましたから、当然本来日本に来ることはできなかった。それを裏道を使って呼んでしまったおかげで、はじめてタリバンが公式にメディアの前に出てきたのです。

2012年6月27日、同志社大学神学館で開催された公開講演会「アフガニスタンにおける和解と平和構築」。テーブル席の左端から二番目が中田考氏。三番目が現在カーリー・ディーンムハンマド師(タリバン代表、現在第二次タリバン政権の経済大臣)。テーブル席右端がムハンマド・スタネクザイ(カルザイ政権当時代表)。これがタリバンが世界で初めてメディアの前に姿を表した奇跡的なシンポジウムだった。このときの舞台裏のエピソードなど詳細は『タリバン 復権の真実』に書かれている。

 

平川:中田さんが金閣寺に案内したりしてましたよね。

 

中田:そうなんです。タリバンとお茶を飲んだの私だけだと思います(笑)。

 同志社大学はタリバンを呼ぼうとしていることをアフガニスタン政府が聞きつけて、「タリバンが行くんだったら我々も呼んでくれ」と彼らのほうから言ってきて、彼らの対面が実現しました。

 当時のアフガニスタン政府には、高等平和評議会というタリバンと和平をするための機関が設けられていました。ところがタリバンは「アメリカ軍の傀儡政権とは一切交渉しない」と言っていたので、この評議会は機能していなかったんです。

 評議会のTOPは元ムジャーヒディーン政権の大統領だったラッバーニーでしたが、タリバンの使節を名乗る人間を迎え入れて交渉しようとしたところ、その人間が自爆してしまい、ラッバーニーは暗殺されてしまいました。

 その時に同じく殺されかけて生き残った人間が、2012年に日本に来た高等和平評議会の事務局長だったスタネクザイです。「これでやっと、本当にタリバンの使節と会える。是非私も呼んでくれ」と彼らのほうから言ってきたわけです。

 

平川:すごい機会だったんですね。

中田考氏とムタワッキル師(当時、第一次タリバン政権の外務大臣)。金閣寺の前で。
ムタワッキル師(中央)と、第一次タリバン政権職員のムトゥマイン氏(右端)を、中田考氏が金閣寺の茶室でもてなした。このときの詳細は 『タリバン 復権の真実』に書かれている。

 

中田:我々も、京都でスタネクザイがタリバンの代表と二人で話す機会を作ってあげたりしました。その後、ヨーロッパも我々を真似してそういう機会を作りましたが、彼らはタリバンを呼んでも結局自分たちの意見を押し付けようとするので失敗してしまいます。

 2014年ぐらいからロシアがタリバンを招きはじめ、その次に中国が始めて、結局ヨーロッパは排除されてしまいました。

 

平川:なるほど。ヨーロッパとの関係で言えば、『タリバン 復権の真実』に十字軍の話が出てきますよね。「イスラームは十字軍からの攻撃を受けている」という感覚って今でもあるんですか?

 

中田:ビン・ラディンがそれを大きく広めたこともあり、その感情があることはあります。やっぱり被害者意識というか、負けている人間は僻みっぽくなりますから、そのせいもあるでしょうね。

 

ウサーマ・ビン・ラーディン( 1957〜 2011年)。サウジアラビア出身のイスラム過激派テロリスト。1988年に国際テロ組織「アルカーイダ」を設立してその初代司令官となり、アメリカ同時多発テロ事件をはじめとする数々のテロ事件を首謀したとされている。

 

(【質疑応答編】につづく)

平川克美氏(左)が主催する「隣町珈琲」にて。

 

構成:甲斐荘秀生

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中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

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