「タリバンの復権」しかり、昨今世界中でメディアの未来予測が外れているのはなぜか?【中田考】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「タリバンの復権」しかり、昨今世界中でメディアの未来予測が外れているのはなぜか?【中田考】

「隣町珈琲」中田考新刊記念&アフガン人道支援チャリティ講演(後編)

 しかし、第二次世界大戦が終わってヨーロッパが灰燼に帰した時代でも、世界のほとんどはそのヨーロッパ列強の植民地であり、ヨーロッパと戦って植民地支配から脱出できた国はほとんどありません。日本軍が遺した武器を獲得して旧宗主国オランダと戦ったインドネシアも4年以上戦いながら軍事的には勝利できず、国際世論の後押しにより1949年にかろうじて独立を認められました。またアルジェリアが独立戦争によってフランスから独立したのは第二次世界大戦が終わってから15年以上も経った1962年でした。アジア・アフリカの諸国のほとんどは自滅したヨーロッパからですら自分たちの力だけでは独立できなかったのです。それぐらいヨーロッパが強かったことを理解しないと、今の世界は理解できません。

 

■「支援」の皮を被った植民地支配

 

 現在はすべての人に平等に人権があることになっていて、表立って人種差別的発言はできなくなりましたが、それでも実際のところは全然平等ではない。それがよくわかるのが難民問題です。

 アフガニスタンは、一連の内戦で1000万近くの人間が難民になっています。この難民をどこが引き受けたかというと、400万~500万人を隣国であるパキスタン、300万~400万人をこれも隣国であるイランが引き受け、その他の人は世界各地に散らばりました。

 最近ですと、シリアの難民が記憶に新しいですが、シリアは元々人口が2000万人程度の小さな国のところ、そのうちの600万人ぐらいが難民として国外におり、さらに国内の難民も何百万人かいます。シリアの難民の受け入れが一番多いのがトルコで350万人程度、レバノンやヨルダンに100万人程度がいます。

 ところがヨーロッパは100万ほどしか受けいれていません。シリアは元々ヨーロッパが植民地化した国ですから、当然難民に関しても責任があるわけですが、それでも受け入れられないのです。本当に人間が平等であるなら、そんなことにはなりませんよね。

 アフガニスタンからの難民も、「我々は受け入れません。トルコが受け入れなさい」とヨーロッパは言うわけです。トルコはアフガニスタンと国境を接していないので、隣国ですらありません。それなのにヨーロッパは「同じイスラームの国だろう。お前のところで受け入れろ」と、とんでもないことを言っており、実際にトルコにはアフガニスタンから既に30万人の難民が入っています。

 ここに明確に存在している差別は、ヨーロッパ・アメリカの植民地支配のシステムに深く関係しています。

 植民地支配とはどういうものかというと、まず資源を搾取します。例えばイランでは、20世紀はじめからイギリスが石油利権を支配していました。1951年に当時の首相モサディクが石油の国有化を行い、資源の主権が認められましたが、CIAの陰謀で1953年に潰されてしまいました。しかし一度できたこの流れが脈々と続き、後には石油資源はその国のものであることが認められ、サウジアラビアなどが産油国として莫大な富を手にしました。

 このように、植民地支配ではまず資源が吸い上げられ、次にお金が吸い上げられます。そしてもうひとつ、人材、すなわち人的資源が吸い上げられています。実は最大の問題はこの最後の人材の搾取だと私は思います。

 ヨーロッパは「我々は難民を受け入れられないよ」と言っていますが、実は受け入れられている人間もいます。それは「優秀な人間」です。優秀な人間は我が国に入れよう、呼んでこよう。そして能のない人間に対しては「お前たちは要らないから、自分の国で飢えて死ね」と言っているわけです。

 

2021年10月28日、タリバン暫定政権下のアフガニスタン難民の子どもたちの様子。 食糧危機により餓死する子どもが増えている。

 

 そして、この現実がさらなる難民を作りだしています。アフガニスタンへの支援に関して言えば、女性への教育や、「子供に夢を与える」と言って技術を教えようとすること、それ自体は悪くありません。国民がすべて衣食住が足りている状態であるならばそれは悪くないですが、アフガニスタンは現在それ以前の状態です。子供たちは学校に通うどころではなく、焼いたパンを子供が売ってなんとか一日に数十円を稼いで、やっと家族が生きていけるような状況なのです。そういうところで、英語ができて欧米人の眼鏡に適う一部の人間だけにいい思いをさせ、その中でも優秀な人間はヨーロッパに行ける。そういうことを「支援」と称してずっと続けてきた結果が、現在の世界なのです。

 

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中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

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