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改憲派だからこそ反対する「自民と維新の改憲論議」【篁五郎】

■ナチスドイツの手口に学んだ「緊急事態条項」

 

 自民党の茂木幹事長が11月12日に読売新聞のインタビューで緊急時に政府の権限を強化する「緊急事態条項」の創設を優先的に目指すと発言をした。茂木幹事長は「新型コロナウイルス禍を考えると、緊急事態に対する切迫感は高まっている。様々な政党と国会の場で議論を重ね、具体的な選択肢やスケジュール感につなげていきたい」と述べ、維新の会や国民民主党と連携する考えを示した。

 改憲で緊急事態条項を入れるのは絶対に止めないといけない。

 先ず、歴史上で緊急事態条項を発動させたらどうなるか? ナチスドイツが教えてくれている。「ナチスの手口に学んだらいい」と麻生副総裁が発言していたが、緊急事態条項を入れておくと知らない間に独裁政治が完成してしまう。ナチスドイツは緊急事態条項という名前ではなく全権委任法という法律を使ってワイマール憲法を事実上廃止した。

 自民党の憲法草案に記載されている緊急事態条項にも同様の危険が孕んでいる。先ずは緊急事態条項の条文から紹介したい。

 

「第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。

3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。

4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。 」

 

 問題なのは「特に必要があると認めるとき」との基準が明らかにされていない。「外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」とあるがどの程度なのか記載がない。しかも法律で特別措置法を定めていても内閣の判断と国会で過半数を握っている党の思惑で独裁ができてしまう。国会の承認が必要とされているが、内閣を形成しているのは過半数以上の与党である。与党が反対をするわけないのだから100日ごとに承認を得ればいつまでも独裁を敷くことが可能である。

 そもそも災害ついては災害対策基本法があり、相当大胆な緊急対応を行うことも可能になっている。戒厳令にならないように規定もある。しかもこうしても国会を開けない場合には、「緊急政令」を制定も可能だ。災害対策基本法では、内閣総理大臣に行政上の権限を一時的に集中させ、効率的な行政執行を行うための仕組みも整備されているのにどうして改憲して緊急事態条項を入れないといけないのか不思議である。

 緊急事態条項は1946年の帝国議会で論議をされた上で「入れない」と判断されている。当時の金森国務大臣は以下の理由で入れる必要はないと答弁している。

 

1.国民の権利擁護のためには非常事態に政府の一存で行う措置は極力防止すべきこと、

2.非常時に乗じて政府の自由判断が可能な仕組みを残しておくとどれほど精緻な憲法でも破壊される可能性があること、

3.憲法上準備されている臨時国会や参議院の緊急 集会(衆議院の解散中に緊急で開催する)で十分であること、

4.特殊な事態に対しては平常時から立法等によって対応を定めておくべきこと、

 

 この答弁を覆すだけの根拠を今の国会議員に示すことはできないだろう。

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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