松田公太「コロナで客が来ないから」外食産業の家賃棒引き法の無法地帯 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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松田公太「コロナで客が来ないから」外食産業の家賃棒引き法の無法地帯

【連載】「コップの中の百年戦争 ―世の中の不条理やカラクリの根源とは―」

■コロナ流行で発生した“飲食店の家賃問題”

 「コロナウイルスの流行と、人的接触削減のための外出自粛を政府や都道府県が求めたお陰で、飲食店に人が来なくなった」ということで、外食産業の人たちが「家賃棒引きにしろ」と言うモラトリアム法を作れって騒いでいたんですよ。

【記者会見レポート】新型コロナウイルス感染症の影響を受けた飲食店を救済すべく、「外食産業の声」委員会が発足、「家賃支払いモラトリアム法」を提案 
https://food-stadium.com/feature/28470/

 結論から言えば、こういう不審な活動をする人たちがテナントに入っても大丈夫なように、不動産業界というのは賃貸契約の中に解除条項がテンプレで入っていて、また、物件を貸すときに経営者の個人保証を入れてもらい、さらに賃料が払われないときのために保証会社をつけてもらうんですよね。

 私も立場があるのであまり書きたくないことですが、物件を貸す側からしますと、飲食店というのは比較的よく潰れるのです。それはもう、次々と潰れては、また別のテナントが入ります。コロナがあろうがなかろうが「飲食店などすぐ潰れる前提」でいろんな手を打っているんですよ。もちろん、真面目にやっている飲食店はたくさんありますし、繁盛しているお店は尊敬するし、テナント貸しで10年以上お付き合いさせていただいている先もある。取引の長いところが個別に「いや、すいません。この情勢なので払えないのです」と言われれば、交渉の余地は確かにあるかもしれない。これを「減賃交渉」というわけですが。

 でも、一般的にそういう減賃交渉が成立するのはごくわずかなので、だからこそ、「外食産業の声」委員会なるものができて、飲食店が徒党を組んで政治家にロビーをかけ「俺たちを救え」と言っとるわけでしょう。でも、ここに名前を連ねる100件だかの飲食店やチェーン店は、入っている不動産のオーナーや管理会社に、個別に交渉をできるほどの良い関係が築けていないんだろうと思います。

 実際には、家賃が払われないことは往々にしてあるので、契約にはほぼ必須で賃料保証会社を入れています。この「外食産業の声」とやらが騒ごうが、モラトリアム法が成立しようが、国土交通省から家賃減免の交渉には応じろと言われようが、家賃が払えないなら家賃保証会社に「あいつ、今月賃料払わないんすよ」と未払い賃料の代位弁済を請求する書類を2枚書いて終わりです。家賃保証会社は基本的に賃貸契約が満了することを前提に保証額を決めているので、オーナーが飲食店に泣きつかれたからと言って勝手に賃料下げたら場合によっては契約解除されてしまいます。賃料を下げる交渉があるというのは、破綻しかねない飲食店をテナントとして入れていると判断されてしまうからです。

 厳しいようですけど、客が来ないから飲食店が借りてる不動産の賃料払わなくて良いとはならない。そういうこともあろうかと、家賃保証会社を入れ、契約で「3か月滞納したら退去」と書いて契約を交わし、法人契約なら保証金をお預かりし、大切な物件で稼げないようなことが起きないようにするのが不動産管理の鉄則です。守るべき食文化があるのは理解しますが、泣き言を言う前に、ちゃんと内部留保で現預金を厚く持てる経営をしてもらわないと困ります。不動産オーナーは飲食店経営者のお母さんでもなければ慈善団体でもないので。利益の出ない食文化ならそれは誰もその文化を支持してないということなので、契約を守れないなら潰れるのも当然とも言えます。

 払えないなら保証金から差し引きますし、ずっと払われなさそうなら家賃保証会社に代位弁済を求めて債権を移して、保証会社が彼ら飲食店の払えなかった家賃を取り立てる仕組みになっております。それでも建物から出ていかなかったり、アホが建物を壊したりすることもあるので、そういうときは保証人としてたいてい飲食店経営者が入っているので、直接取り立てることもあるし、そういう回収業務を専門にやっているサービサーという職種の人たちに債権を売って、明け渡し請求訴訟をやり、場合によっては立ち退きの強制執行の手続きをします。

 だいたい3か月から4か月の滞納で、そろそろ保証金も相殺したし出て行ってもらうかな? という状況に仕上がるでしょうか。

 これらは、保証会社が入っている限り、テナントである飲食店が減賃交渉をしてきても、勝手に物件オーナーや管理会社が応じることはできません。応じたら家賃保証が外れてしまう契約であることがほとんどだからです。したがって、ちょっと前まで国土交通省さんが「不動産オーナー側に補助を出すから」という話をしていたのが一転、飲食店側に家賃負担額を自治体から給付という方針に変わったのも当然です。この「外食産業の声」とやらが騒いでいる内容が単なる契約違反だし馬鹿馬鹿しいので不動産オーナー側からすれば飲みようがありません。

 

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山本 一郎

やまもと いちろう

著作家、ブロガー、投資家、経営者

1973年東京都生まれ。著作家、ブロガー、投資家、経営者。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2000年IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。著書に『情報革命バブルの崩壊』『俺様国家中国の大経済』『ネットビジネスの終わり』ほか。   ブログ「やまもといちろうオフィシャルブログhttps://lineblog.me/yamamotoichiro/  

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