都市近郊区間と廃止区間、JR札沼線の思い出【前編】  |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

都市近郊区間と廃止区間、JR札沼線の思い出【前編】 

電化区間を行く

 2020年5月7日付でJR札沼線(通称「学園都市線」)の一部区間である北海道医療大学駅~新十津川間(47.6㎞)が廃止となる。今般の新型コロナウイルス汚染拡大に伴い、最終運行は二転三転の末、4月17日に前倒しされ、地元の新十津川町の発信するライブカメラ中継を自宅で見た限りでは、ほどほどの見送りで静かに幕を閉じたようだ。これを機に、過去に出かけたときの写真を見ながら、思い出を綴ってみたいと思う。

 札沼線に乗りに行ったのは、2011年夏のことで、単行本で取り上げる路線のひとつとして選んだため、編集者と二人での取材旅行だった。まる2日かけての取材で、当時は全線非電化、通勤型車両のディーゼルカーが札幌駅に堂々と乗り入れていたが、これは、すでに珍しい情景であった。多くの列車がクロスシートを備えていたのも「乗り鉄」としては嬉しい話だった。北海道医療大学駅までの電化が完成してからも、札幌近郊区間には乗ったけれど、オールロングシート車が幅を利かし、少々残念な状況だと思う。

 札沼線は地方交通線、いわゆるローカル線で、札幌駅に出入りしていたにもかかわらず列車本数が少なかった。1982年当時、札幌発の列車は間隔が2時間以上空くこともあり、夕方も18時頃から19時頃までが30分毎という程度。そのくせ、札幌発新十津川行きが6本もあるという興味深い列車ダイヤだった。

 それが、札幌近郊区間の沿線の宅地開発がすすみ、大学も複数設置されるにともない列車本数が増えていった。1987年のJR発足時には、昼間時に札幌~あいの里教育大駅間で1時間に2本となり、現在(2020年春)では、昼間は20分毎、夕方のラッシュ時は15分毎の運転となっている。その一方で、北海道医療大学以遠は本数が激減し、終点の新十津川駅に発着する列車は、長らく1日3往復だったのが、2016年3月からは、わずか1往復になってしまった。このように、同じ路線でありながら、札幌近郊区間と末端区間では、はなはだしく状況が異なるのが札沼線の特徴なのだ。

 まずは、札幌駅から乗車。最初の停車駅桑園駅を出ると、函館本線と分れて右へ右へとカーブしつつ北上する。高架の八軒駅からは複線となる。2011年当時は、高架で複線の非電化区間が続くという珍しい光景が見られたが、2012年に電化され、都市鉄道らしい雰囲気となった。新琴似駅を発車すると、列車は地上に下り、住宅地の中を快走する。三角形のとんがった屋根の家が目に付く。雪の多い北海道らしい情景で、どこか北欧の都会の郊外を思い出させる。

 駅前にマンションやビルが目に付く篠路駅を出ると伏籠(ふしこ)川を渡る。両側が緑地帯となっていて、広々とした雰囲気なのがよい。一瞬ではあるが目の保養になる。

 拓北駅の次のあいの里教育大駅で降りてみた。三角屋根のメルヘン的な駅舎は、あいの里という駅名にマッチしている。広々とした駅前は、高層マンションもあり、ニュータウンらしい明るい雰囲気だ。北海道教育大と北海道医療大の一部の学部と病院があり、若い人が目に付くのは学園都市だからであろう。一方、南口の方は空き地もあり、ちょっとさびれた感じ。開発はこれからのようである。

 20分後の列車に乗車。ここから単線となる。一駅乗ってあいの里公園駅で下車。駅舎の中央、出入口の上にあるドームは蒸気機関車をイメージしているとか。動輪をデザイン化したように見える。かつては、少々あいの里教育大駅に寄ったところに位置していたのだが、1986年に現在の場所に移転し、釜谷臼という駅名も現在のものに変更されている。北に向かって数分歩いたところに駅名ともなっているあいの里公園があり、その中のトンネウス沼は珍しいトンボが生息していることでも知られる。

 さらに列車で移動する。JR北海道の路線にしては、本数が多く気楽だ。住宅地が途切れると石狩川を轟音を立てて渡る。1キロを超える長い鉄橋は、JR北海道最長だとか。渡り終わると、線路の近くには人家はほとんどない広大な田園地帯となる。これまでの札幌近郊の住宅地とは一線を画したような大自然の情景には癒される。札沼線の非電化区間が廃止となったあとでも、この車窓は残るので安心だ。

 次の石狩太美駅までの距離も長く、これまでは2~3分毎に停車していたのに、たっぷり5分間、それもかなりのスピードで走り続ける。遠くに、北海道土産で人気のあるロイズのチョコレート工場が見える。工場近くに新駅を設ける構想があるそうで、チョコレート工場見学などを大々的に行う計画があるようだ。札幌駅から30分少々でやってこれるのなら人気の観光スポットになるかもしれない。

 石狩太美駅で降りてみた。瀟洒な駅舎は北欧風だ。駅から車で数分のところにある北欧風住宅地スウェーデンヒルズに因んだものという。芸能人や文化人が別荘として使っているらしく、なかなか高級なイメージに満ちている。

 石狩太美駅から石狩当別駅までも一駅なのに5分以上かかる。ここまでやって来ると、すっかり北海道の典型的なローカル線の姿だ。電化が完成して、札幌発の電車の終点は次の北海道医療大学駅となったが、非電化区間を走るディーゼルカーの始発駅は石狩当別なので、この駅で下車して列車に乗り換えることにした。乗り換え時間が少々あってので、外へ出てみる。赤レンガ色の駅舎はコンクリートのビルだ。札幌郊外の拠点駅といった近代的な風情で、建物だけ見ているとローカル線という感じではない。

 ホームに戻って、新十津川駅行きの列車の到着を待った。この頃は、新十津川駅行きの列車は1日3往復。廃止の噂もなく、青春18きっぷが使える時期であったにもかかわらず、乗客はまばら。何とものんびりとした雰囲気を楽しんでいた。

  

 次回は、いよいよ非電化ローカル線の旅の模様をレポート。お楽しみに。

  

KEYWORDS:

オススメ記事

野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

この著者の記事一覧