他の生物に寄生して生きるウイルスの「真相」感染免疫学の専門家・岡田晴恵教授が提言!【新型コロナウイルスと闘う③】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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他の生物に寄生して生きるウイルスの「真相」感染免疫学の専門家・岡田晴恵教授が提言!【新型コロナウイルスと闘う③】

新型ウイルスの犠牲になる人、重症化する人

◼️インフルエンザの犠牲になりやすい人、重症化しやすい人

 脅威をもたらす新型インフルエンザとはどのようなものなのか。インフルエンザの定義をはじめに整理してみよう。インフルエンザを、①毎年流行するインフルエンザ、 ②鳥インフルエンザ、③新型インフルエンザの3つに分けて話を進めていく。

 1. 通常のインフルエンザ

 インフルエンザは、毎年北半球と南半球で、それぞれ冬を中心に2カ月間くらいのあいだ流行する。熱帯地方では一年中、存在している。日本でも毎年数百万人の患者を出し、1〜3万人の死者を出している。とくに高齢者層が犠牲になりやすいことから、厚生労働省は65歳以上の高齢者にワクチン接種を勧めている。

 毎年流行し、1万人単位もの犠牲者を出し続ける病気は、インフルエンザ以外には存在しない。 インフルエンザウイルスに感染すると、1〜2日後に高熱、筋肉痛等の症状が現われ、咳、 鼻づまり等の呼吸器症状が加わる。健康な成人は1週間程度で回復するが、高齢者や心臓、呼吸器、腎臓等に疾患を持った人や、妊婦、乳幼児などは肺炎を合併して重症化しやすく、ハイリスク群とされている。

◼️インフルエンザは、毎年ワクチン接種が必要な重大な疾患

 インフルエンザでは、毎年流行するウイルス株が変わるため、毎年新たに変更したワクチンを接種する必要がある。このような方式でのワクチン接種を必要とする病気もインフルエンザ以外にはない。いわゆる「風邪」の病原体は200種近くあるが、インフルエンザは単なる風邪とは異なり、風邪様症状を呈する他の感染症とは特に区別して対応すべき重大な疾患である。

 日本では、インフルエンザと風邪が混同して扱われる向きがあるが、アメリカでは風邪は「cold」、インフルエンザは「flu」と区別されている。「flu」ならば病院に行けといわれる。 インフルエンザには、A型、B型、C型があり、人に毎年流行するのは、A型、B型である。 ここではとくに、A型インフルエンザを中心に話を進める。なぜなら、このA型インフルエンザの中から新型インフルエンザが登場するからである。

A型インフルエンザは8本のRNAの分節を遺伝子情報として持つ

 A型インフルエンザウイルスは、図に示すように8本のRNAの分節を遺伝子情報として持ち、表面にはHA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼタンパク質)という蛋白が スパイク状に並んでいる。このHAには16種類、NAには九種類あって、異なったHA、N Aの組み合わせによって、A型インフルエンザウイルスにもさまざまな種類が存在する。たと えば、H5N1などと新聞等で表記されるのは、HAが5、NAが1という組み合わせを示している。

◼️他の生物に寄生して生き残って行くウイルス

 遺伝子情報として8本のRNAの分節を持っていると述べたが、これはインフルエンザウイルスはRNAしか持っていないという言い方もできる。実は、これがこのウイルスの宿命なのである。ウイルスは、RNAかDNAのどちらか一方しか持っておらず、エネルギー生産や蛋白合成もできないために、自身だけでは、遺伝子情報を読みとり、タンパク質を合成して子孫ウイルスを残すことはできない。何か他の生物に潜り込んで寄生し、その細胞の機能を借用してタンパク質やエネルギーをつくり、ウイルス自身を複製して生き残って行くしかない。

◼️1日に100万個以上に増殖・伝播するウイルス

 こうして、ウイルスは相性の良い生物の細胞に強引に潜り込み、その細胞の機能を乗っ取って、自己のウイルス子孫を増やすことに専念する。これが感染である。その結果、入り込まれた細胞は、たいていの場合は死んでしまう。インフルエンザにかかると喉が痛くなり、激しい咳とともに高い熱も出る。これは、インフルエンザウイルスに感染した喉の細胞がダメージを受けた結果引き起こされる生体反応である。

 患者の咳やくしゃみの中にあって飛び散ったインフルエンザウイルスは、空気中を漂って周囲の人間に吸い込まれるのを待つ。他者の気道や呼吸器の粘膜に到達すると、そこで増殖して感染が成立する。インフルエンザウイルスは非常に伝播力が強く、さらに増殖が速い。一個のウイルスが、1日で100万個以上に達する。 人の遺伝子はDNAで、このDNAのエラー(突然変異)に対する修復機構を持っている。

哺乳類が100万円かけて行う進化を、1年でやり遂げるインフルエンザウイルス

 しかし、インフルエンザウイルスの遺伝子はRNAで、RNAは、遺伝子の読み違え、塩基の 付加または欠損に対して修復機構をもたない。また増殖スピードが速いということは、それに 連動して遺伝子の複製も行なわれることになり、結果として、インフルエンザウイルスは遺伝子変異を起こしやすく、哺乳類が100万年かけて行なう進化をたった1年でやり遂げてしまう。

 インフルエンザウイルスは、このようにして毎年少しずつ進化していく。そして、過去に罹ったインフルエンザの免疫記憶を巧妙にすり抜けて人に感染する。そのため、毎年違ったインフルエンザウイルスのワクチンが必要になってくる。現在、さまざまな科学的な見地と経験から、インフルエンザワクチンの株の選定会議が毎年WHOによって行なわれ、翌年の流行に備えたワクチンが製造されているのである。

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  • 岡田 晴恵
  • 2013.08.09