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あなたの投資の常識は金融商品販売会社にとって都合がいいだけかも。

元野村投信ファンドマネージャーの警鐘・金融資産が消滅する! 第2回

◼️「若いうちはリスクを取れる」と考えるライフサイクルファンド

 「貯蓄から投資へ」のスローガンの裏付けとされた、日本社会の金融リテラシーが向上していけば米国のように個人金融資産構成は「リスク資産偏重」になっていくはずだという証券業界が大きな期待を掛けたロジックには、当時の証券業界の主張とは矛盾する内容が含まれていました。

 「貯蓄から投資へ」というスローガンが掲げられ始めたころ、証券業界は今や「投資の常識」になっている「若いうちはリスクを取れる」という考えも取り入れていました。そして、その考えに基づいた「ライフサイクルファンド」の販売にも力を入れていたのです。

 この「ライフサイクルファンド」について証券業協会のウェブサイトでは次のように説明されています。

 「ファンド購入者が若年層の場合は、運用の期間が長くなりますので、リスクは大きくとも長期的には高いリターンが期待できる株式の組み入れ比率を高めた積極運用を行います。一方、高齢層に近づくにつれて運用の期間が短くなるため、確定利付き商品の組み入れ比率を増やした安定運用に資産配分を変えていくものです」(証券業協会「金融・証券用語集」) 

 つまり、「ライフサイクルファンド」というのは、リスクを多く取れる若いうちは株式というリスク資産に多く投資し、年齢が上がっていくにつれて株式などリスク資産の組み入れ比率を落として債券などの安定資産の比率を増やしていくという考えに基づいて運用を行うファンドの総称です。 

 この考え方が本当に正しいかどうかは別問題として、「若いうちはリスクを取れる」という考え方に基づいた「ライフサイクルファンド」においては、結果はともかく、リスク選好の度合いが年齢とともに変化していくという考え方と運用方針の間に一定の整合性があるといえます。

 また、「貯蓄から投資へ」というスローガンのもとになっている、日本社会の金融リテラシーが向上していけば、日本の個人金融資産の構成比は金融リテラシーの高い米国のように「リスク資産中心」のものになっていくはずだ、という主張も正しいかどうかは別として、金融資産の構成と金融リテラシーに高い相関があるという前提に基づけば一定の整合性のとれた意見だということができます。 

 

◼️「日本人の金融資産構成は米国型に向かう」?

 問題は、個別に見れば整合性のとれたこれらの二つの考え方を同時に主張すると矛盾が生じてしまうことです。 それは、日本と米国の「高齢化比率」が大きく異なっているからです。日本が世界で最も早く、急ピッチで高齢化が進んでいることは当時から周知の事実でした。米国は「金融リテラシー」の面では日本よりずっと先進国かもしれませんが、「高齢化社会」という点 においては日本の方が米国よりもずっと先進国だったからです。 

 内閣府の「平成年版高齢社会白書」によると、2015年時点での日本の総人口に占める65歳以上の割合である「高齢化率」は 26・6%と、ドイツの 21・1%、スウェーデンの19・6%、フランスの18・9%、米国の14・6%などを大きく引き離して世界のトップとなっています。

 この白書で示されているデータによれば、2015年の26・6%という日本の「高齢化率」をドイツが上回るのが2030年、フランスは2050年、イギリスは2060年とずっと先のことであり、米国に至っては2060年までの間これを上回ることはないと推計されています。

 このように、日本では米国に比べて高齢化が大きく進んでいるのです。仮に「ライフサイクルファンド」の前提となっている「若いうちはリスクを取れる」という考え方が正しいとすれば、世界に先駆けて急激に高齢化が進んでいる日本で、世界に先駆けて「リスク資産から安定資産へ」という動きが現れていても当然だということになります。

 それは、世界で最も早く高齢化が進んでいる日本の金融資産構成が、先進主要国の中で最も高齢化の進展が遅いと見込まれている米国の金融資産構成に近付いていくことは考えにくいということでもあり、むしろ、高齢化後進国である米国の金融資産構成が、高齢化が進み始めるにつれて高齢化先進国である日本の姿に近付くと考えた方が合理的だということでもあります。

 「若いうちはリスクを取れる」という考え方に基づいた「ライフサイクルファンド」の販売に力を入れていた証券業界が、同時に「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げて「高齢化先進国」である日本の「預貯金偏重」型の個人金融資産の構成が「高齢化後進国」である米国の「リスク資産中心」の個人資産構成に近付いていくという主張を展開することは、矛盾を孕んでいたのです。 

 当時こうした矛盾に気づく人は証券業界にも顧客にもほとんどいませんでしたが、「貯蓄から投資へ」というスローガンが今になってもほとんど受け入れられていないという現実を見ると、多くの国民は漠然と主張の矛盾を感じ続けているのかもしれません。 

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『202X 金融資産消滅』
著者/近藤駿介

アベノミクスを支えた世界最大の機関投資家GPIFの日本株離れが始まる。
個人の金融資産のメルトダウンをどう乗り切るか!? 

元野村投信のプロ・ファンドマネージャー、現・金融経済評論家、コラムニストの著者がアベノミクス後にやってくる日本経済の危機に警鐘を鳴らす。アベノミクスを日銀とともに支えた世界最大の機関投資家GPIFが、安倍政権退陣後に日本株の売り手に転じることから株価が暴落し、日本人の金融資産や年金が大幅に目減りする。早ければ2020年代前半に始まる日本経済の長期低迷への備えを提案する。著者は東洋経済、ダイヤモンド、ブロゴスへの寄稿や、MXテレビ「WORLD MARKETZ」のレギュラーコメンテーターを務めるなど、さまざまな経済メディアで活躍中です。

【内容】
第1章 作り出されたアベノミクス相場 
第2章 世界最大の機関投資家GPIFとは何だ
第3章 GPIFの運用の問題点 
第4章 早ければ2020年からGPIFは売手に回る? 
第5章 投資の常識は非常識
第6章 「世界最大の売手」が出現する中での資産形成

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  • 近藤駿介
  • 2020.02.27