【超高齢社会の超成長戦略】医療・介護を日本の超成長分野にするイノベーション戦略を語ろう |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【超高齢社会の超成長戦略】医療・介護を日本の超成長分野にするイノベーション戦略を語ろう

高齢化するアジア各国にも応用できるクラウドサービスの未来(1)

 喫緊の課題である超高齢社会における医療・介護問題。国民の生命と健康を守る医療、介護子育ての現場で改めて危機対策のために共有すべき「情報」の重要性が認識されている現在、ICT(情報通信技術)を駆使しながら体系的に効率的なサービスを行う企業がある。東証一部企業の株式会社カナミックネットワークだ。「地域包括ケア」を「クラウドサービス」で支える同社の目指す社会福祉のあるべき方向性、日本だけでなく世界でのICTプラットフォームから医療・介護サービスを効率的に行う可能性について同社の代表取締役社長の山本拓真氏にお話を聞いた。
【PROFILE】山本拓真(やまもと・たくま)
 株式会社カナミックネットワーク代表取締役社長。2000年、株式会社富士通システムソリューションズ(現富士通株式会社)を経て05年、同社常務取締役、07年専務取締役。11年、国立大学法人東京大学高齢社会総合研究機構研究員、12年、国立研究開発法人国立ガン研究センター外来研究員。14年9月より同社代表取締役社長(現任)、16年東証マザーズ上場、18年東証一部上場。 

◆介護・医療の現場情報を社会で「共有」するシステム

———まず、社長におうかがいします。御社の「地域包括ケアクラウドサービス」についてご説明していただけますか?

山本拓真氏(以下、敬称略「山本」と表記) 「私たちの会社は介護・医療・子育てなど、社会保障分野に特化したITサービスのベンダーであり、来るべき超高齢社会の未来に向けてより確かなクラウドサービスで課題解決を取り組んでおります。
 具体的には介護・医療に特化した「情報共有システム」と「介護ソフト」を開発し、介護・医療・子育ての現場で働く医師、ケアマネージャー、看護師、薬剤師、ヘルパー、地域包括支援センターの方々に効率的な働き方ができるよう「情報共有」によって支援すると同時に、患者様のみなさんも安心して病院・在宅医療問わず治療が受けられるようにするサービスです。一人ひとりの人生を受け止め、抱きしめられるような事業を目指しています。
 介護を例に説明しますと、医療は医学という学問が体系化されていますし、医師の育成システムも充実しています。看護にも看護学、薬剤師にも薬学があります。しかし、ケアマネジメント学はありません。大学や医療系学校にも、介護(福祉)学科やコースはあっても、「ケアマネジメント学部」は存在しません。したがって、人材育成システムが確立されていないのです。
 これまで介護という分野は、日本各地のケアマネージャーや介護サービス事業所が、自分の経験に基づく“個人知(暗黙知)”を頼りに運営してきました。その結果、偶然いいケアマネージャーや介護サービス事業所に遭遇するとある意味、運がいいという、再現性や品質の均質性に難があるといえます。地域包括ケアクラウドサービス(【図表】参照)とは、そうした個人知をネットワークを使って組織知(形式知)として体系的なデータとして再編しながら、あらゆる医療・介護サービス従事者で共有していこうというネットワークサービスです」

———医療・介護従事者がネットワークを通じて成功例を知ることができるわけですね。

山本 「その通りです。Aという患者を治療している医師や介護サービス事務所、ケアマネージャーの計画・実施・記録・評価をデータベースとして蓄え、それをチーム全体がリアルタイムに知ることができれば、時間のロスがなく情報が伝わり品質が向上します。今後、全国各地のデータを集積、有効活用することで、効率よいサービスを提供していくこともでき、現在の医療・介護現場で最も求められているツールなのです。
 業務の効率化や、コストダウンを図るというメリットもあります。というのも、医療や介護の現場は、かなりの地域でカルテ(診療記録・介護記録・連携ノート等)を手書きしています。そして、病院や介護事業所を変更すると、また最初からカルテを作成。いかにも無駄が多いのです。そうしたカルテを、個人情報に十分に配慮しつつ、全国各地の関係者間だけで共有できれば効率化を図れますし、カルテに使う紙も必要なく、経費削減につながります」

———介護保険とも連動しているのですか?

山本 「もちろんです。介護保険サービスをバックアップ・充実させるサービスと考えていただけると良いと思われます。
 例えば、破損して一部分が凹んだバレーボールを想像してみてください。このボールを、要介護者のいる家庭としましょう。介護保険は凹んだ部分を補い、要介護者が自立することを支援するのが目的です。しかし、ボール全体、つまり家庭や人生までケアできないと、本当の意味での良いサービスにはなりません。そこをどうするかが、じつは最も深刻な課題なのです」

——家族が介護に疲弊してしまっては、本末転倒ということでしょうか? そうした家庭は多いでしょうね。

山本 「家族の疲弊は今後、より重層化していくと考えられます。日本は晩婚化、高齢出産、さらに少子化という大きな問題を抱えています。この状態が進むと、子育て中の世帯が親の介護も同時並行で担わなければならない——じつは、そうした時代が目前にあるのです。
 親が介護の認定を受ける「要介護認定率」は、後期高齢者となる75歳を超えると飛躍的に伸び、30%を超えるといわれています。団塊の世代がこの75歳に入るのは2025年。5年後には、日本はこれまで経験したことのないほど、大人数の要介護者を抱える事態に陥る可能性があるのです」

◆超高齢社会を地球規模で捉えた成長戦略

———日本の社会保障のピークは、2042年といわれています。

山本 2040年には社会保障費に190兆円が必要であり、医療、介護の保険全体では100兆円を超えるという、政府の試算(厚生労働省「今後の社会保障改革について-2040年を見据えて-」)が算出されています。この年、団塊ジュニア世代が65歳を超え、いよいよ要介護認定が迫ってくるからです。
 だが、支えてくれる下の世代は、少子化で人口自体が少ない。この困難な課題を解決するには、抜本的な改革抜きに改善できないものです。
 子どもを産み、育て、かつ親の介護も並行してできる社会と町づくり、国づくりを目標とし、介護しながら働ける社会を目指す、その糸口となるのが介護業務の効率化であり、コストダウンです。弊社のクラウドサービスこそが、その糸口になると考えております」

———社会問題を解決する上で日本だけでなく、文字通り地球規模でネットワーク化できればさらに大きな成長産業になるのではないでしょうか?

山本 「介護を“事業”と“投資”として見る企業は、これまでの日本にはあまりありませんでした。先ほども申した通り、体系的なデータを編纂する方法がななかったのですから。
 その点、弊社のクラウドサービスは日本の標準モデルとなるべく、慎重に検討と実証を重ねてきました。その結果、現在は全国で約2万5000の事業所と、約10万7000名の医療・介護従事者に利用され(2019年9月時点)、多職種連携、他法人連携をサポートしています。
 介護系専業のソフトウェアベンダーとしては、日本で初めて東証一部上場も果たしました。弊社のケースは、世界でも唯一といっていいでしょう。日本が世界に先駆けなければならないと思います。世界でいちばんの長寿国(2018年WHO調べ)、国民皆保険が整備され、世界が憧れる国なのですから、先鞭をつける義務を背負っているのです。
 かつて日本は、優れた工業技術を世界に先駆けて開発し、輸出してきました。次は医療・介護サービスの開発と輸出を目指そう、これが私のプランでもあるのです。超高齢社会にイノベーションを起こしたい、その志で取り組んでおります。
(第2回「クラウドサービスの課題と未来」につづく)

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