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75年前の正月に特攻した京大生の遺書から今、命を生きる意味をどう見出すべきか

「敗戦」とどう向き合うか【戦後75周年特集①】

◆ある京大生・海軍少佐の遺書【1945年1月6日特攻】 

 以下の遺書は、特攻作戦を遂行する前の年末、京大生で、海軍中尉(戦死後、2階級特進で少佐)吹野匡さんの遺書である。

海軍少佐
吹野 匡
(鳥取県出身 1919〈大正8〉年生まれ、26歳。京都帝國大学 海軍第13期飛行科目予備学生神風特攻旭日隊 米国重巡洋艦「ルイスヴィル」に体当たり敢行した)

母上様
 昭和19年12月21日 匡
 私は永い間本当に御厄介ばかりおかけして参りました。色々の不幸の上に今又母上様の面倒を見る事もなしに先立つ不幸をお許し下さい。
 昨秋、私が海軍航空隊の道を選んだ事は、確かに母上様の胸を痛めた事と思います。常識的に考えて、危険性の少ない道は他に幾らもありました。国への御奉公の道においては、それでも充分果たされたかもしれません。しかし、この日本の国は、数多くの私達の尽きざる悲しみと嘆きを積み重ねてこそ立派に輝かしい栄えを来たし、また今後もこれあればこそ栄えて行く国なのです。私の母上はこの悲しみに立派に堪えて、日本の国を立派に栄えさせてゆく強い母の一人である事を信じたればこそ、私は何の憂いもなしにこの光栄ある道を進み取る事が出来ました。私が、いささかなりとも国に報ゆるところのある益荒男の道を進み得たのも、一に母上のお蔭であると思います。
 母上が、私をしてこの栄光ある海軍航空の道において、輝かしい死を、そして、いささかの御奉公を尽させて下さったのだと誇りをもって言う事ができます。
 美しい大空の白雲を墓標として、私は満足して、今、大君と愛する日本の山河とのために死んで行きます。

(前文略)
 皇国三千年の歴史を考うる時、小さな個人、あるいは一家のことなど問題ではありません。我々若人の力で神州の栄光を護り抜いた時、皇恩の広大は一家の幸福をも決して見逃しにはしないと確信します。
 もちろん、皇恩の余沢を期待される母上ではないと信じますが。
 つまらぬことを書き連ねましたが、要は、私が、心から満足して立派に死んでいったことを知って、母上から喜んでいただければよいのです。百枝や叔母上様方にもよろしくお伝え下さい。
 くれぐれもお身体をたいせつに長生きされて、日本の隆々と栄ゆる御代の姿を見届けて下さい。
  では、さようなら。
      昭和19年12月31日
母上様

     辞世
  すめら皇国は 大丈夫の かなしき生命
  つみかさね まけのまにまに 死にかはり
  生きかはりつつ 栄ゆなり

◆敗戦から75年、問われるのは「生きる意味」

  吹野さんが特攻されて75年、「平和」の時代のもと、日本人は「死に代わり、生き代わり」を遂げながら豊かさを享受しつつも、令和の時代までたどり着いている。ただし、現在の閉塞した状況で、与えられた命を生きる「意味」を改めて見出すことをせずにはいられないことも確かであろう。
 例えば、バブル崩壊後の「就職氷河期世代」は社会によって見捨てられ、いまだ100万人を超える人(中高年60万強)が引きこもりになっており、その世代以降の資産なき家庭の子供たちも長期デフレ化での貧困格差の問題にさらされている。もし一部の者、「大企業だけ栄えて国滅ぶ」ような状況になっているのだとしたら、75年前の一人の若者の特攻で後世に託した「生きた意味」さえ奪うものにならないだろうか
「日本の隆々と栄ゆる御代の姿」をもう一度、築き上げねばならない。そんな新しい年にすることが「敗戦75年」目の教訓となるのではないだろうか。(『鎮魂 特別攻撃隊の遺書』をもとに構成)

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さらに1945年4月7日「沖縄特攻」戦闘時[未公開]写真収録!
2020年「大和」轟沈75周年記念
昭和の帝国海軍アルキメデスたちが見落とした想定外の[欠陥]を
令和を生きる読者自身の目で確かめよ!

物言わぬ図面とのみ取り組む技術者にも青春はある。
私の青春は、太平洋戦争の末期に、
戦艦「大和」「武蔵」がその持てる力を発揮しないで、
永遠に海の藻屑と消え去った時に、失われた。
なぜなら、大和、武蔵こそ、私の生涯を賭した作品だったのである。
(「大和」型戦艦の基本計画者・海軍技術中将 福田啓)

なぜ、時代の趨勢を読めずに戦艦「大和」は作られたのか?
なぜ、「大和」は活躍できなかったのか?
なぜ、「大和」は航空戦力を前に「無用の長物」扱いされたのか?

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編著者の原 勝洋氏が新たなデータを駆使し、
こうした通俗的な「常識」で戦艦「大和」をとらえる思考パターンの「罠」から解き放つ。

それでも「大和」は世界一の巨大戦艦だった

その理由を「沖縄特攻」、米軍航空機の戦闘開始から轟沈までの
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【目 次】
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[第2章] 戦艦大和・建造の記録
[第3章] 戦艦大和の障害
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大和・復元図面 1一般配置図 2船体線図/中央切断図/防御要領図

 

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原勝洋

はらかつひろ

戦史研究家

1942年4月、静岡県生まれ。法政大学法学部卒業。

『高松宮日記』(中央公論社)の編集に関する調査に従事。

『文藝春秋』(昭和55年5月号)掲載の「暗号名ウルトラ 山本長官機を撃墜す」は、英訳され現在、米国国立公文書館Ⅱ所蔵の米軍極秘資料「Yamamoto shootdown」ファイルに収録されている。

『戦艦大和発見』辺見じゅんとの共著(ハルキ文庫)、『新装版・ドキュメント戦艦大和』吉田満との共著(文春文庫)の他、『零戦秘録』、『真相・カミカゼ特攻』、『暗号はこうして解読された』、『カラー写真で見る太平洋戦争』、『カラー写真で見る「原爆」秘録』、『真相・戦艦大和ノ最期』、『戦艦「大和」永遠なれ!』、『伝説の戦艦「大和」』(以上、KKベストセラーズ)などの編著がある。

 

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