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「元農林水産省次官、44歳引きこもりの息子殺害事件」に見られる現代家族の病

ベストセラー『馬鹿ブス貧乏』本の著者・藤森かよこが斬る事件の真相

■ゲゼルシャフトとしての家族にとっては戦士になれない成員は邪魔

 一方、加害者にとっては、家族はこの世界を生き抜き勝ち残っていくための軍団だと考えていたのではないか。家族の機能は、そのような軍団の一員を再生産し養成することである。家庭の役割は、そのような闘争に参加することを可能にするための生活資源を構成員に適切に分配し、そのような闘争が生む疲労の慰安を提供することだ。

 したがって、加害者にとっては、引きこもりの息子は家族という軍団の勝利に全く寄与できない一員として無能極まりないと思えたはずだ。息子の引きこもりのために長女の縁談が壊れ長女が自殺したことは、彼にとっては婚姻ネットワークによる家族軍団の強化に寄与する可能性のある構成員を喪失したことになる。

 

 それでも、加害者は、息子を軍団の一員として養成することに失敗した責任は軍団のリーダーとしての自分にあると考え、息子を44歳まで養ってきた。彼にとってはこれ以上の譲歩はなかった。考えられる限りの譲歩だった。この父親は、息子の助けになろうと、コミケにつきあい売り子までしたことがあったのだ。

 なのに、息子は軍団の有能な戦士になれなかったことを謝るでもなく反省するわけでもなく、外界で戦うことはできなかったのに、家庭では暴力を行使した。父親にとっては、この息子の行為は理不尽以上の理不尽であり、言語道断に身勝手な寄生虫的搾取的行為と思えたのではないか。

 

 日本の家族は、すでに1980年代からゲゼルシャフト化しつつあった。それは、今村仁司が『現代思想の系譜学』(ちくま学芸文庫、1993)収録の1984年に発表された「市民社会化する家族」というエッセイにおいて指摘している。今村によると、資本主義社会における家族は、利益集団化し、構成員の価値は家族にもたらされる利益によって計られる。存在そのものに意味はないのだ。

 だから、ゲゼルシャフト化した家族において、子どもはいつまでも子どもをやってはいられない。親も親だからという理由では尊敬はされない。老人は家庭を終の棲家にはできない。勝ち抜いていく軍団の有能な戦士になれないのならば、家族の中に居場所はない。ゲゼルシャフト化した家族の構成員はその意味で、常に自分を有能な戦士として鼓舞する孤独な個人である。

 私には、現代の家族の問題の多くは、家族をいまだにゲマインシャフトとして想定している人間の、ゲゼルシャフト化している家族への適応不能から生じていると思える。

KEYWORDS:

馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。
著者/藤森かよこ

 

死ぬ瞬間に、あなたが自分の人生を
肯定できるかどうかが問題だ!

学校では絶対に教えてくれなかった!
元祖リバータリアンである
アイン・ランド研究の第一人者が放つ
本音の「女のサバイバル術」

ジェーン・スーさんが警告コメント!!

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これは警告文です。本作はハイコンテクストで、読み手には相当のリテラシーが求められます。自信のない方は、ここで回れ右を。「馬鹿」は197回、「ブス」は154回、「貧乏」は129回出てきます。打たれ弱い人も回れ右。書かれているのは絶対の真実ではなく、著者の信条です。区別がつかない人も回れ右。世界がどう見えたら頑張れるかを、藤森さんがとことん考えた末の、愛にあふれたサバイバル術。自己憐憫に唾棄したい人向け。  
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あなたは「彼ら」に関係なく幸福でいることだ。権力も地位もカネも何もないのに、幸福でいるってことだ。平気で堂々と、幸福でいるってことだ。世界を、人々を、社会を、「彼ら」を無駄に無意味に恐れず、憎まず、そんなのどーでもいいと思うような晴れ晴れとした人生を生きることだ。「彼ら」が繰り出す現象を眺めつつ、その現象の奥にある真実について考えつつ、その現象に浸食されない自分を創り生き切ることだ。
中年になったあなたは、それぐらいの責任感を社会に持とう。もう、大人なんだから。 社会があれしてくれない、これしてくれない、他人が自分の都合よく動かないとギャア ギャア騒ぐのは、いくら馬鹿なあなたでも三七歳までだ。(本文中より抜粋)

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課 程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。  

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