【オーケストラはナマで聴け】 | BEST T!MESコラム

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オーケストラはナマで聴け

クラシック音楽を10倍楽しむオーケストラ入門

 僕たちもステージの上で、常に空気の振動を感じながら演奏しています。振動どころか、ときには嵐の中で音が塊になって体にぶつかってくるような圧力に、全身の産毛が逆立つことさえあります。

 僕がオーケストラはナマで聴いてほしいというのは、ぜひこの「空気の振動」や「音の圧力」の迫力を感じてほしいからです。さすがにオーケストラの中に座るのはムリですが、コンサートホールに足を運んでいただければ、ステージからあふれ出す空気の振動は、十分感じられるはずです。

 また、漫然と見ているだけだとわかりませんが、ステージは左右に広いだけでなく、意外と奥行きもあります。立体的に配置されたオーケストラの音は、ホールの天井や壁に反響して、大きな波のように客席に降り注ぎます。ダイナミックな音の波に包まれる体験を、ナマで味わわないのは本当にもったいないことだと思います。

 CDやレコードではこのような空気の震えはわかりません。テレビやラジオの中継も、聴きやすいようにバランスを調整されてしまうので、その場で聴く音とはまったく別ものです。

 そういえば以前、真空管アンプを扱っているオーディオショップの知人が「オーディオマニアは、凝れば凝るほどコンサートに足を運ばなくなるんですよ」と嘆いていました。

 現在は半導体が使われているアンプがほとんどですが、音質の良さや、音に温かみがあるという理由から、昔ながらの真空管アンプを好むマニアは少なくありません。しかし、機械の性能に凝れば凝るほど、ナマの音を味わうという本来の目的を必要と思わなくなってしまうのです。

 大音量というだけならロックバンドも負けていません。しかし演奏者の衣擦れが聴こえそうな小さな音から、全員がザッとかまえて一斉に音を出すときのダイナミックな音まで、オーケストラほど幅広い音域と音量、そして表現力を持っている音楽媒体はほかにありません。この先、デジタルによる再生技術がどんなに進化しても、ナマの音の味わい、さらにオーケストラの迫力を再生することはできないと僕は思います。ナマに勝るものはありません。

KEYWORDS:

『クラシック音楽を10倍楽しむ 魔境のオーケストラ入門』

著者:齋藤真知亜

 

“N響"の愛称で知られる、NHK交響楽団。1986年に入団し、今日までヴァイオリニストとして活躍してきた著者による、初めてのオーケストラ本です。どうしても堅苦しく、格式が高いイメージで捉えられがちなクラシックの世界を、演奏する側の気持ちを交えて分かりやすく解説します。演奏時の楽団員それぞれの役割や、ステージ上で感じる緊張など、オーケストラの一員である「オケマン」目線で本音を綴り、コンサートや音色の新しい楽しみ方を提案。「知れば知るほどもっと奥へと分け入りたくなる、秘境にも似た魅力」と著者が語る、クラシックの世界をお楽しみください。

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齋藤真知亜

さいとうまちあ

NHK交響楽団 第一バイオリン・フォアシュピーラー

東京都出身。東京藝術大学附属音楽高校を経て、東京藝大を首席卒業。1986年5月1日N響入団。1999年から毎年開催している自主企画リサイタルのシリーズ「Biologue」「Quattro Piaceri」、バルトーク全曲演奏に挑んだ「ヴィルトゥオーゾ・カルテット」や、民族楽器によるコンサートにも注目が集まっている。また、ジュニア・フィルハーモニック・オーケストラでは、山本直純氏の遺志を受け継ぎ、指揮・指導を行っている。大学や個人レッスンのほか、個人でもアンサンブルなどを率いて活動中。


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