オーケストラは、クラシック音楽の演奏家として生きていきたい人にとって魅力的な就職先です。なぜなら、固定給のある演奏家の仕事はほかにないからです。音楽を勉強している人がみんな、華やかなソリストを目指しているわけではありません。僕の新人時代を知れば、「オケマンにも普通の会社員と同じところがあるんだな」と思っていただけるでしょう。(齋藤真知亜 著『クラシック音楽を10倍楽しむ 魔境のオーケストラ入門』より)

■新人オケマンには、とにかく時間がない

 オーケストラは、クラシック音楽の演奏家として生きていきたい人にとって魅力的な就職先です。なぜなら、固定給のある演奏家の仕事はほかにないからです。音楽を勉強している人がみんな、華やかなソリストを目指しているわけではありません。

 音楽を学び始めたころは、誰もが「ソリストとしてデビューして有名になりたい!」という意気込みを持っているものですが、多くの人が途中で才能の限界を悟ったり、自分はソリスト向きでないと感じたりして方針転換します。

 その後の人生は、人それぞれです。音楽家への夢をきっぱり諦めて就職する人もいれば、音楽教師を目指したり、音楽教室を開業したりする人もいます。そして、僕のように「自分はオーケストラが好きだ」「一人でやるよりオーケストラの方が向いている」と考えて、オーケストラを目指す人もいます。〝オーケストラへの就職〞と述べたのは、オーケストラは演奏会などの収益活動をしている団体であり、そこで働くオケマンも一般企業の会社員と同じ勤め人だからです。僕の新人時代を知れば、「オケマンにも普通の会社員と同じところがあるんだな」と思っていただけるでしょう。

 僕が就職したのは、日本を代表するオーケストラ、公益財団法人NHK交響楽団(N響)です。公式プロフィールには、入団年は1986年と書かれていますが、当時のN響では最初の1年は試用期間中の「契約楽団員」なので、実際には大学を卒業した85年6月から所属していました。

 N響オケマンの大事な仕事のひとつに、定期演奏会などの公演に向けた練習があります。

 練習は朝10時に始まり、途中で休憩を入れながら、午後3時15分に終わります。オーケストラによってはもっと長いところもありますが、N響では就労時間が定められており、厳密に守られています。一般の会社員と比べると勤務時間が短いと思うかもしれません。しかし、クラシック音楽の演奏は非常に神経を使うため、気力と体力の消耗を考えて、就労時間は短めになっています。

 もっとも、新人オケマンが定時に出社し、退社するということはありません。一日も早く一人前になるために練習することが新人の使命ですから、誰に言われるでもなく早出・居残りで自主練習するのが暗黙の了解です。僕も毎朝7時に家を出て、8時半には港区高輪にある練習スタジオに入っていました。