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最大の敵は「忘却」である【適菜収】

【隔週連載】だから何度も言ったのに 第1回

 

■ 鶏は三歩歩けば忘れる

 

 私は10年くらい前から、月1回の時評を続けてきた。気になったニュースを並べ、それに対するファーストインプレッションなどをまとめたものだ。

 最初は『新潮45』の「だからあれほど言ったのに」でそれをやり、『新潮45』が事実上の廃刊になった後は、『ZAITEN』の「個人tekina体験」で続けてきた。

 今回 『ZAITEN』の連載が誌面リニューアルのため終了になった。時事的なテーマに関するコラムは、日刊ゲンダイの連載「それでもバカとは戦え」でも書いているので、これを機会に月1の時評はやめようかと思ったが、『BEST TiMES』で月に2回、つまり隔週で同様の連載をやることにした。

 なぜなら、このような形にしないと、「大多数向け」ではない小さい話題を取りこぼしてしまう気がしたからだ。「小さい話題」でも、記憶しておかなければまずいことはある。後から振り返ったときに、その出来事の重要性がわかるケースもある。

 人間はすぐにものを忘れる。「鶏は三歩歩けば忘れる」というが、人間だって五歩くらい歩けば忘れるのであり、たいした差はない。人間の脳は忘れるようにできている。ものを忘れるほうが健常なのである。

 私の場合も、自分の記憶力を一切信用していない。誰かと喋っていて重要なことがあったら、メモをとるか、相手にメモをさせて、メールで送ってもらう。「どこの店がおいしい」といった情報を聞いたら、その場でiPhoneのボイスメモに店名を吹きこむ。そうしないと、ほぼ9割くらいの確率で完全に忘れる。 風呂に入っているときでも、コラムのネタなどを思いついたら、面倒でも風呂から出て、紙にメモするか、ボイスメモに吹きこむ。アルキメデスが風呂に入り、水が湯船からあふれるのを見て「アルキメデスの原理」を発見したという有名なエピソードがあるが、興奮して裸のまま浴場から街へ飛び出したというのは多分誇張された話で、メモをとりに行ったのだと思う。

 人間がものを忘れる生物だとしたら、大切なのは思い出す仕組みをつくることである。たとえば、津波があった場所に碑を建てるのがそうだ。

 

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適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

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