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世界も危惧する“教員を軽視し続ける国”日本

【第9回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■世界でも露呈した「教員軽視」の国・日本

 2019年9月10日に経済協力開発機構(OECD)が発表した『図表でみる教育2019年版(Education at a Glance 2019)』で、日本は教育機関に対する公的支出の対GDP比が、OECD加盟国のなかで最も低かった。トップがノルウェーで6.3%、次いでフィンランドの5.4%、ベルギーとアイスランドの5.3%と続くなかで、日本は4%にすぎない。

 公的支出が少ないのだから、教員の待遇がよくなるわけもない。同調査では、初等教育における教員の給与水準を、2005年と2017年で比較しているが、日本は05年に比べて17年に約9ポイント下がっていた。OECD加盟国の多くで教員の給与水準が上がるなかで、日本は下がっていたのだ。

 この結果に、調査を取りまとめたアンドレアス・シュライヒャーOECD教育スキル局長は、「教員の給与水準が下がれば、教員はそれほど魅力的な職業ではなくなってしまう。このままでは一番優秀な人材を教員に誘致することができるのか、という疑問が残る」とコメントしている(『教育新聞』Web版 2019年9月10日付)。
 日本の教員の待遇は、外部からも心配されるほどの状況なのだ。
 

■教員の質を高めるためには給与改善が必須

 その日本でも、優秀な人を教員として迎えるために好待遇を呈示したことがある。「給特法」で4%の教職調整額を上乗せしたり、25%もの給与引き上げを目指した「人確法(学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法)を、日本政府は成立させている。

 1977年に自民党文教部会長だった藤波孝生は『自由民主』(第258号)に「世界に誇る人確法」という一文を寄せ、「わが党は教員の質を高めるために大切な施策の一つは給与政策にあると確信し、早くから教員給与の改善に取り組んできた」と述べている。

 そして彼が文部政務次官の時代に、日本政府が教員を弾圧していると日教組がILO(国際労働機関)に提訴した件で、日本政府の政策を説明するためにジュネーブのILOを訪ねた際のエピソードを次のように書いている。「ILO事務局長のブランシェール氏は、わが国の人確法の内容をきいて『ワンダフル! 世界でも非常に驚嘆すべきことだ』と述べ、日教組問題についてのILO幹部の理解はこれから大変深まった」
 つづけて藤波は、「このエピソードは人確法がいかに世界にも類例のないものであるかを如実に語っている」と誇らしげに書いている。それがいまや、OECDの局長に「疑問が残る」と言わしめるような状態になってしまっているのだ。

 人確法の大きな狙いは「日教組潰し」にあったのだが、それは脇に置いても、教職に優秀な人を集めるためには「待遇の改善」が必要だとの認識を、当時の政府・自民党は持っていた。藤波に言わせれば、自民党にいたっては「確信」していたのである。
 そのことを、日本政府も自民党もすっかり忘れているようだ。

 給特法の見直しが国会で審議されても、給与面の話はスルーされてしまった。政府や自民党は意図的だが、野党までもがスルーしてしまったのだ。採用試験の倍率や受験者数の低下には大騒ぎするマスコミも同様である。

 待遇面を無視して、「優秀な人を教員に集めろ」と誰も彼もが主張している。それでいて、精神疾患が増えている環境についても、改善を求める大きな声にしていく熱心さは感じられない。

 問題の多い給特法と人確法だが、藤波の言葉を借りれば「教員の質を高めるために大切な施策の一つは給与政策にある」という、そもそもの原点に戻って考えてみるべきなのではないだろうか。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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