◆奇跡の経済理論、登場!

徳間書店初代社長・徳間康快 

 2019年、わが国では消費税率が10%に引き上げられました。
 消費税とは読んで字のごとく、消費することの負担を重くする性格の税。つまりは景気を冷え込ませ、経済をデフレ(需要が供給よりも少なく、ゆえにモノをつくっても売れない状態)へと向かわせる効果を持ちます。

 

 デフレ不況が長年続いたわが国で、そのような税を強化したらどうなるか、なかなかコワいものがある。
 現に10月の実質消費支出は前年比5.1%減、景気動向指数は前月より5.6ポイント悪化。
 10〜12月期の景況判断指数も、大企業(全産業)がマイナス6.2、中小企業(同)にいたってはマイナス16.3を記録しました。
 まさに総崩れの印象ですが・・・

 

 そんな日本で最近、話題になった経済理論が「MMT」。
 Modern Monetary Theory (またはModern Money Theory)の頭文字をつないだもので、日本語では「現代貨幣理論」と訳されます。

 

 MMT紹介の第一人者は、評論家の中野剛志さん。
 2016年の大著『富国と強兵 地政経済学序説』(東洋経済新報社)こそ、わが国でMMTを本格的に紹介した最初の本でしょう。
 『富国と強兵』は、いささか専門的なトーンで書かれているため、初心者には取っつきにくいところがあったものの、中野さんは2019年、KKベストセラーズから刊行された『奇跡の経済教室』二部作で、MMTを平易に解説しました。

 

 目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】では、MMTの要点がスッキリまとめられており、つづく全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】では、デフレ脱却のうえでMMTが持つ意義や、MMT批判にたいする反論が「特別付録」として随所に織り込まれています。

 私も2018年、平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路(KKベストセラーズ)で、MMTに基づいた議論を展開しましたが、その際は『富国と強兵』が大いに参考になりました。

 

 2019年には、アメリカの経済学者L・ランダル・レイの著書『MMT 現代貨幣理論入門』も東洋経済新報社より翻訳されましたが、中野さんはこれにも巻頭解説を寄稿。
 今やその他にも、題名に「MMT」を冠した本がいくつも登場、ちょっとしたブームになっています。

 

◆「鈴木くん、金は銀行にいくらでもある」

 貨幣理論というと、堅苦しく複雑そうな印象を受けるかも知れないものの、MMTの根本は難しいものではありません。
 それどころか、経済学者ならぬ企業の経営者たちは、理論として体系化される前から、MMTに従って行動していたのです!

 

 具体例をご紹介しましょう。
 1995年、キネマ旬報社より『宮崎駿・高畑勲とスタジオジブリのアニメーションたち』という特集本が刊行されました。
 じつは私も寄稿していますが、経済や貨幣とは無縁なこの本に、MMTの本質をみごとにとらえたエピソードが出てくるのです。

 

 エピソードを披露したのは、ジブリのプロデューサー・鈴木敏夫さん。
 スタジオジブリは当初、吉祥寺のビルを借りて本拠にしていました。しかし映画製作を続けるうち、すっかり手狭になってしまう。
 そのため1990年代はじめ、宮崎駿さんが新社屋を建てようと言い出します。いわく、仮の住まいでは優秀な人材が集まらないし、集まった者も育たない。
 もっともな理屈ですが、ジブリには建設資金がまったくなかった。
 さあ、どうするか。

 

 昨今の政府よろしく、「財源がない」ことを理由にあきらめるのが、たいがいの人の反応かも知れません。
 ところが鈴木さん、「何とかなるだろう」と考えるんですね。
 そしてジブリの生みの親ともいうべき、徳間書店の徳間康快(とくま・やすよし)社長が大賛成する。
 徳間さん、ジブリの初代社長も務めたものの、鈴木さんによればこう言ったそうです。

 

【鈴木くん、金は銀行にいくらでもある。人間、重いものを背負って生きてゆくもんだ】
(『宮崎駿・高畑勲とスタジオジブリのアニメーションたち』、50ページ)

 

 鈴木さん、「こういう人生観もあるのかと不思議な感動にとらわれた」とのこと(同)。こうしてジブリは自前の社屋を持つにいたり、ますます発展していったのでした。