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「本」とは圧倒的な「美」であった!
深く味わいたい「アール・デコ」高級挿絵本の世界(1)

「知の巨匠」フランス文学者・鹿島茂氏インタビュー

Q——高級挿絵本の中でも、「アール・デコの挿絵本」は特別だったのでしょうか?

鹿島・・・「アール・デコ」という言葉、これには意外に明確な定義があるのです。1925年にパリで、アール・デコ博覧会が開かれました。当時の「デザイン革命」を、世界に向けて発信するための博覧会だったのですが、この博覧会で特徴的に現れた美術様式が「アール・デコ」です。
 ちなみに、「アール・デコ」とは、アール・デコラティブの省略形。かつて職人芸として扱われていた「装飾美術」という意味のフランス語です。「装飾美術」というのは、例えば、タピスリーやステンドグラス、家具、陶芸、服飾、印刷・造本・ポスター等を指します。
 この時代、職人芸の分野に、機械と工場システムが導入され、1点ものはどんどん大量生産品に変わっていきました。ここで製品の「プロトタイプ」が必要になったわけですが、大量生産品は競争に勝つためには、このプロトタイプのデザイン性が必要となったというわけです。

ジョルジュ・バルビエ アルベール・フラマン著『コメディの登場人物』 1922 年 © NAO KASHIMA(NOEMA.Inc.JAPAN)
 

Q——アール・デコの挿絵本」は、出版・印刷のデザイン分野で、当時、最新の流行だったのですね。

鹿島・・・大量生産できる「版画」は、複製技術の先駆けです。版画には「情報性」という要素もあったため、活字と版画が結びついた「イラスト・ジャーナリズム」が発達していくのですが、そうした進化が加速する中、版画におけるもう一つの要素である「デザイン性」は希薄化してしまいます。
 ところが、1911年から1914年の時期、こうした流れに逆らおうとする何人かの編集者が現れるのです。彼らが、ジャーナリズムの世界に「デザイン性」を持ち込んだのです。
 例えば、リュシアン・ヴォージェル、ピエール・コラール、トマッソ・アントンジーニの3人の編集者です。彼らは、新鋭のイラストレーターたち、ジョルジュ・ルパップ、ジョルジュ・バルビエ、シャルル・マルタン、アンドレ=エドウアール・マルティらを動員します。そうして創られたモード雑誌によって、新しいモード・ジャーナリズムは沸騰。こうした中から、アール・デコの装飾本は生まれてきたというわけです。

Q——特に、有名な挿絵本はありますか?

鹿島・・・アール・デコの挿絵本の最高傑作は、木版画家のシュミットが、バルビエの原画を全て板目木版で起こした1922年の『ビリチスの歌』でしょう。3年の歳月をかけて、125部という少部数を全て一人で制作。彼は活字まで創造したのです。
  それから100年近くの時が流れ、グラフィック技術が発展した現在でも、アール・デコの挿絵本が史上最高水準の挿絵本であることに変わりはありません。

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鹿島茂コレクション アール・デコの造本芸術 高級挿絵本の世界
 日比谷図書文化館では10月24 日(木)〜12月23日(月)まで「アール・デコの造本芸術」展を開催中。20 世紀初頭、アール・デコ華やかなりし時代に、革新的なデザイン感覚を持ったイラストレーターと、高度な技術を持った印刷職人とのコラボレーションにより次々と産み出された高級挿絵本。それはまた、新鋭イラストレーターを起用し新しいモード・ジャーナリズムを見事に開花させた先見の明ある編集者の登場と、裕福なパトロンが同時代に存在するという、幸福なできごとにより生まれた芸術でもありました。
 本展では、フランス文学者の鹿島茂氏が 30 年以上にわたって収集してきた膨大な数の個人コレクションの中から、バルビエ、マルティ、マルタン、ルパップによる挿絵本と、4 人がそれぞれに関わったファッション・プレート合わせて100 点あまりを紹介します。アール・デコの造本芸術の優美な世界をご堪能ください。

 

予言を的中させるトッド理論、初めての本格解説書!
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「予言」を次々と的中させ、世界中で話題を集めている フランスの人類学者エマニュエル・トッド。
なぜ、トッドの予言は的中するのでしょうか?
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鹿島教授が世界史の有名事件、混迷する世界情勢や社会問題、そして現代人の悩みまで紐解いていきます。

 

 

明治の革新者~ロマン的魂と商業~ 
鹿島茂

同書は、近代国家•日本の礎を築いた二十五人の実業家たちの物語である。
仏文学者•鹿島茂氏が彼らの“履歴書”を通して、「人生に必要なものは何であるか」を
私たちに問いかけます。混沌と波乱に満ちた21世紀の今こそ
自らの力で道を切開いてきた男たちの人生から学ぶための一冊!

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