国民の「勧善懲悪への飢え」を政府は“時々”は満たすべきだ【藤森かよこ】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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国民の「勧善懲悪への飢え」を政府は“時々”は満たすべきだ【藤森かよこ】

ポリコレではなく普通のまっとうさを国民は求めている

■市民感覚では悪なのに法的解釈で悪とされない悪への怒り

 

 同じく非常に論議を呼んだ事件は、これも2019年に起きた。実の娘が子どもの頃から娘を強姦していた父親に対して、名古屋地裁岡崎支部が無罪判決を下したからだ。

 この判決について報道がされた直後に、私は名古屋地裁岡崎支部に電話をした。該当の裁判官に話をさせてくれと申し出たが、断られた。明らかに邪悪なことが懲らしめられないのは許せないと思った。

 しかし、この事例についての現行法の解釈では、加害者の父親は無罪にするしかなかったらしい。「名古屋地裁岡崎支部は、被害者が両親の反対を押し切って専門学校に進学し、その学費を被告人が負担していたことや、抵抗により性交を拒絶することができたときもあったことなどから、被告人が被害者の人格を完全に支配し、被害者が被告人に服従・盲従せざるを得ないような強い支配従属関係にあったとまでは認めがたいとして、「抗拒不能」にあったことを否定し無罪判決を下した」のだ。(※19歳の娘へ性虐待の実父「逆転有罪」に 地裁の「無罪」で明るみに出た、現行法の問題点 | 文春オンライン (bunshun.jp))

  弁護士の伊藤和子の説明によると、原告の女性(娘)が被告人(実父)に対して抵抗しがたい心理状態にあったとしても、それだけでは、現行法の解釈では父親に有罪判決は下せない。被害者(娘)が「解離」という精神状態に至り、かつ被害者の生命・身体などに重大な危害を加えられる恐れがあり、かつ被害者が性交に応じるほかには選択肢が一切ないと思い込まされていた場合でなければ、いかに性虐待があり、強制的性交が為されても、強姦にはならず、加害者(父)は何らの刑事責任も問われないのだ。(※19歳の娘に対する父親の性行為はなぜ無罪放免になったのか。判決文から見える刑法・性犯罪規定の問題(伊藤和子) – 個人 – Yahoo!ニュース)

 現行法のなんという理不尽さ。現実から遊離している馬鹿々々しさ。

 と私が憤っていたら、20203月に、この「岡崎準強制性交事件」(どうみても子ども性的虐待事件であるのだが)の控訴審には、「逆転有罪」の判決が下りた。

 私は、「やればできるじゃないの」と思った。司法がその気ならば、勧善懲悪は実現する。市民感情からすれば明々白々に悪であるが、従来の法的解釈からすれば悪と断じることができない悪でも罰することができるのだ。

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課 程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。  

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