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「おかえりモネ」が描いた障害者スポーツのエゴ。パラリンピック的な思想とどう向き合うか。【宝泉薫】

2021陸上ドイツ選手権での男子走幅跳でのマルクス・レーム選手。

 

 東京パラリンピックが始まった。その直前には「24時間テレビ44」(日本テレビ系)も放送され、ネットではこのふたつのイベントの類似性を指摘する人を見かけた。たとえば、障害者を感動の道具にしている、みたいな指摘だ。

 じつはこれに先駆けて、NHKの朝ドラ「おかえりモネ」にも障害を持つキャラクターが登場した。車いすマラソンの女性トップアスリート・鮫島祐希だ。第12週から翌週にかけて物語の中心を担い、賛否両論を生んだ。

 というのも、比較的穏やかな登場人物の多いこのドラマにおいて、彼女は異色の存在。我が強くて、本音をズバズバ関西弁でまくしたてるキャラだ。前作「おちょやん」は関西が舞台で、穏やかでない登場人物も目立ち、それが苦手だった人もいる。彼女の出現によってせっかくの穏やかな雰囲気を乱され、ここで脱落した「おかえりモネ」ファンもいたようだ。

 筆者もこのキャラはあまり好きになれなかった。また、我の強さを表現するために関西弁の設定にしたのもやや安直な気がするが、制作側はわかりやすさを優先したのだろう。ただ、このキャラはドラマをそれなりに活性化させた。なかでも特筆したいのが、障害者や障害者スポーツのエゴをけっこう赤裸々に描いたことだ。

 まず、初登場シーン。彼女は競技力向上のサポートを受けるためにヒロインのいる気象会社を訪れるが、そこにあったゲームに熱中してしまい、面会相手が現れても中断することができない。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って、これ成功、一回させてからやないと、気ぃすまへん。あー、もっかい、もう一回だけ、あー、うーん、わー、大物ゲット~!」

 と、大興奮したあと、悪びれることなくこう言う。

「すんませんね、負けず嫌いなもんで」

 たしかに、これくらいでないと車いすマラソンで一流にはなれないだろう。そういう意味では、効果的な場面だ。

 しかし、どんなに負けず嫌いでも健常者の協力なしではままならないのが障害者アスリート。彼女はサポートチームとの関係を深めていくなかで、こんな弱音を吐くことになる。

「助けてもらってばっかりやからな、私は。ありがたいと思ってるよ。でもな、助けてもらってばっかりやと、時々つらくなるねん」

 そんな鮫島にヒロインがあるアドバイスをするのだが、彼女は逆ギレしてしまうのだ。

「感覚? あんた、今さら何言うてんの? 感覚だけを頼りにやってきたから勝てなくなったんやん。そやから、数字で、データで、科学的な根拠を武器に勝とうと思ったんや。そやから、私は今ここにいるんとちゃうんっ!?(略)負ける話なんか、せんといてよ。今さら精神論? あんたの話なんか、知らんわ!」

 そうまくしたてたあと「今日、ごめんな」と謝るものの「でもな、私は絶対負けられへんねん」と付け足す彼女。この一連のやりとりはなかなかのインパクトだった。

 と同時に、モヤモヤした気分にもさせられてしまう。こうした障害者側の「エゴ」に対する、こちら健常者側のエゴがちょっと不自由だからだ。

次のページエゴというものは人間が楽しく生きるには必要不可欠。ところが……

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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