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教育現場からの「NO」が広がる、パラリンピックの学校観戦プログラム

第92回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-


 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて原則無観客で行われるパラリンピックだが、教育の一環として小〜高校生にチケットが割り当てられるという、不思議なプログラムの実施が決まった。教員、保護者はどう感じ、またどのように対応していくのだろうか…


■子どもたちにパラリンピック観戦を勧める動き

「引率するのは教員であり、負担は重い」と、教員の一人がウンザリした表情で漏らした。

 24日から東京パラリンピックが開催されるが、16日夜に政府と東京都、大会組織委員会、国際パラリンピック委員会(IPC)の4者による協議が行われた。そこで「原則無観客」が決まったのだが、同時に小中高生にチケットを割り当てる「学校連携観戦プログラム」(学校観戦)を実施することにした。
 その翌日の17日には、新型コロナウイルス(新型コロナ)の感染予防のための緊急事態宣言の対象が茨木や栃木など7府県にも拡大された。すでに発令されている東京など6都府県の宣言も、9月12日まで延長することも同時に政府は決めている。

 そうしたなかでも政府は学校観戦の実施を見直すこともなく、会場のある東京都など4都県と連携して各教育委員会などへの協力要請に乗り出した。新型コロナの感染が急激に広がっていることを理由に、東京パラリンピックの無観客開催を決めたわけだが、それでも小中高校生の動員は積極的に奨めるすという、なんともチグハグなことを政府はやっているわけだ。

 しかし、政府が号令をかけても、子どもたちを預かる教育現場が黙って従うわけでもないようだ

 東京都教育委員会(東京教委)が18日の臨時会で学校観戦の実施について報告したところ、出席した教育委員4人全員が反対したという。これを報じた『毎日新聞』(電子版 8月19日付)は、「事務方と意見が真っ向から衝突する異例の展開となった」と報じている。
 とはいえ、この件は議決を要しない「報告事項」であり、教育委員の反対は東京教委の決定に影響しない。重要な案件に思えるのだが、最初から教育委員の意見を聞く気は東京教委にはなかったわけだ。

 東京都内では19日の段階で、62区市町村のうち8自治体が児童生徒らを参加させる意向を示しているという。政府の学校観戦実施の意向を受けて、都教委としては学校観戦を実施する自治体を増やしたいところだろうが、教育委員が反対したということで思うようにはいかないだろう。それどころか、教育委員が反対していることと、緊急事態宣言も拡大された現状も考慮して辞退する自治体が現れる可能性も否定できない。

 東京パラリンピックの会場のある自治体のひとつ、埼玉県でも県として学校観戦の実施を決めている
 大野元裕知事は、「原則無観客はいまの状況に鑑みれば当然と考える。学校連携(学校観戦)については、パラリンピック精神、競技を通じて共生社会の形成に貢献するために、なるべく多くの方々に感染症対策を行ったうえで実施することがふさわしい」と述べている。「共生社会の形成に貢献する」ために観戦がふさわしいなら、「感染症対策を行ったうえ」で一般観戦も認めればいいようなものだが、「原則無観客は当然」と大野知事は述べているのだ。

 素直に従えと言うほうが無理というものである。実際、東京オリンピックと同時にパラリンピックの学校観戦もキャンセルした埼玉県下の市教委などでは見直す動きはない。
 県知事が学校観戦を呼びかけても、現場レベルでは従う動きがないわけだ。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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