人類の進化と“幸福度”と政治<br />~適菜収と清水忠史が語る~ |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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人類の進化と“幸福度”と政治
~適菜収と清水忠史が語る~

生命が誕生して四〇億年

「ワクワク」という勢力

清水  適菜さんに逆に聞きたいのは、現状を打開するためには、何が必要なのか。あるいは、もう、できないと悲観されておられるのか。絶望せずに、読み手に対して希望を与えるようなヒントを出せるのか。僕は今、ワクワクしております。適菜さんは共産党は理想ばかりだと言うけど、理想があってこその仕事だと思います。理想を語れないんだったら、絶望を語る政治家でいいのかと。

適菜  なるほど。なんていうのかなあ。ちょっと、失礼な言い方になってしまうかもしれませんが……。

清水  気にしないでください。

適菜  だから共産党は信用されないんですよ。

清水  失礼だなあ。

適菜  ははは。「気にしないでください」って言ったじゃないですか。現実をまともな方向に変えていくのは大事なことですけど、先に理想を掲げて、それに沿って現実を否定すると危ない方向に行く。

 結局、宗教だったり左翼のロジックはそこなんです。それと政治家はワクワクすべきではありません。日本は「ワクワク」に支配されている。竹中平蔵は「私の改革思想はワクワク感なんです」と述べていますが、安倍も小泉進次郎も小池百合子も橋下も蓮舫も、すぐに「ワクワク」と口走る。

清水  理想は語りますが、青写真を作って、それに社会を結びつけていくという発想は戒めているつもりです。僕たちが目指す世の中は、まだ人類未踏の域じゃないですか。だから、自分たちの頭で想像できないような社会があるかもしれない。奴隷制の時代に、アフリカ大陸から数千万人の黒人がアメリカ大陸に送られて、鉄道や炭鉱で働かされた。南北戦争もありましたが、奴隷制度がなくなったのは一八六五年でしょう。当時炭鉱で働いていた人たちが、黒人差別が解消されて、アメリカの大統領に黒人がなるということを想像できたかということです。もっといえば、士農工商の時代にはサムライに道端で斬られても仕方がなかった。でも、今は社会的に平等な立場で楽しく酒が飲める。昔の人たちがこうした状況を想像できたかというと、理想はあっても、具体的な青写真は描くことができなかったと思うんですよ。

適菜  ちょっと、まぜっかえすようなことを言わせてもらうと、古代ローマに奴隷がいましたよね。でも、当時の奴隷は結構自由だった。カネも使えたし、温泉に行くこともできた。要するに近代のアメリカのような過酷な奴隷制度ではなかった。では、当時の自由な奴隷が、将来の過酷な奴隷制度を予期できたかというと、そうでもなかったわけで。なにが言いたいのかというと、時代の流れとともに世の中がよくなっていくというのは妄想に過ぎないということです。世の中はよくなることもあるし、悪くなることもある。人間はいつの時代でも一瞬で野蛮に落ち込むし、偶然に平和な時代を謳歌する時代もあるというだけの話だと思うんですよ。

清水  自由な奴隷と虐げられた奴隷がいたという話ですが、共通するのはどちらも奴隷ということです。支配する側とされる側。支配のない社会を人類は作れるというのが僕たちの理想。

適菜  まあ、無理でしょうね。支配と被支配の関係はどの社会でも見いだされることです。人は人を支配したいし、人は人に支配されたいんですよ。奴隷の幸福という言葉もありますが、大衆は自由からも逃避する。

清水  ああ、それは言えてる。自由であることのほうがつらい。従属していれば安心できるんだ。

適菜  ほとんどの人間は自由に耐えることができない。心理学者のバリー・シュワルツも、選択肢の多さが幸福度を下げると主張しています。たとえば、多様な医療を選ぶことができる患者の自己決定権は、患者にとってプラスになるのかと。しかし、それはプロである医者の判断より、素人の判断を優先させることになる。結果的に、患者にマイナスになるわけですね。要するに、多すぎる選択肢は選択を困難にするし、常に選択に対する後悔を引き起こす。

清水  深い問題提起ですね。

適菜  だから、権威や教祖を探そうとする。小林秀雄(一九〇二〜八三年)が「人間は侮蔑されたら怒るものだ、などと考えているのは浅薄な心理学に過ぎぬ。その点、個人の心理も群集の真理も変りはしない。本当を言えば、大衆は侮蔑されたがっている。支配されたがっている」と書いてますね。ヒトラーはそれがわかっていた。

KEYWORDS:

『日本共産党 政権奪取の条件』
適菜 収、清水 忠史

 

日本共産党とは相いれない部分も多い。
私は、共産主義も新自由主義と同様、近代が生み出した病の一環であると考えているからだ。
日本共産党が政権を取る日は来るのか?
本書で述べるようにいくつかの条件をクリアしない限り、国民の信頼を集めるのは難しいと思う。
そこで、私の失礼な質問にも、やさしく、面白く、かつ的確に応えてくれる
衆議院議員で日本共産党大阪府委員会副委員長の清水忠史さんと
わが国の現状とその打開策について語った。
――――保守主義者・作家 適菜 収

 

作家・適菜収氏との対談は刺激的であった。
保守的な論壇人としてのイメージが強く、共産主義に対して辛辣な意見を包み隠さず発信してきた方だけに、本当に対談が成り立つのだろうか、ともすればお互いの主張のみをぶつけ合うだけのすれ違いの議論に終始してしまうのではないかと身構えたのだが、それは杞憂に終わった。
――――共産主義者・衆議院議員 清水忠史

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適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

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  • 適菜収×清水忠史
  • 2019.07.08