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教師のイジメはなぜ起きるのか?

教室以外に潜む教育現場の問題

◆教師間のいじめは多数存在している

教育現場における問題は、教室以外でも起きている

 神戸市立東須磨小学校で、1人の教員に対して4人の先輩教員たちが激辛カレーを無理やり食べさせたり、目にこすりつけるなどの「いじめ」を続けていたことが発覚したのは、今年(2019年)10月4日のことだった。この事実を公表したのは神戸市教育委員会(教委)だったが、あまりに悪質だったために隠しきれなかったのかもしれない。

 神戸市教委は被害者や加害者の氏名までは公表しなかったが、たちまちネット上で実名が公表され、いじめの現場を撮影した動画までが拡散されてしまった。いわゆる炎上であり、ネット社会の恐さでもある。
 炎上したためか、マスコミでも多くとりあげられている。しかし、センセーショナルな事件ゆえに、「東須磨小だけの問題」とか「東須磨小の一部教員だけの問題」で済まされる可能性もある。ワッと騒いでスッと忘れるのも、ネット社会の特徴だからだ。

 そうやって早く忘れ去られてしまうことを、実は神戸市教委は期待しているのかもしれない。文部科学省(文科省)にしても、自分のところまで火の粉が飛んでこないうちに下火になることを願っていることだろう。
 しかし、これは「東須磨小学校だけのこと」で済ましておける問題ではない。ここまで悪質な例は珍しいかもしれないが、教員同士のいじめは、多くの学校に存在するのが現実だ。いじめまでいかない「嫌がらせ」は横行している、と言ってもいい。

 その最大の要因は、学校がストレス社会になっているからである。ストレスの発散手段としていじめや嫌がらせが横行し、さらにストレスを助長させているのである。

 

◆見えにくい職員室内のストレス

 文科省が2018年12月25日に公表した「公立学校教職員の人事行政状況調査」によれば、公立小学校、中学校、特別支援学校などの公立学校に勤める教員で、精神疾患による病気休職者数は2017年度で5,077人いたという。この年度だけでなく、精神疾患による病気休職者が5,000人前後というレベルは2007年度からずっと続いている。

 精神疾患に陥る原因は特定されてはいないものの、子どもや保護者への対応で悩んだ末に精神疾患に陥るケースは少なくないといわれている。ただ、それだけではない。東京都内の元教員に訊いたところ、「学校でのパワハラ、特に校長によるパワハラで鬱になってしまう教員は珍しくない」との答えがもどってきた。

「たとえば、教員が書いてきた文章を、それこそ重箱の隅をつつくようにネチネチとチェックして直させる。直してもっていくと、さらにネチネチとやる。前に自分が指示して直させたところにまでダメだしして直させたりなんてことも平気でやります」

 もはや、イジメでしかない。同じようなことは、校長だけでなく、先輩教員が後輩教員に対してやるのも珍しいことではないそうだ。まさに、いじめがあふれかえっているのが職員室ともいえる。

 やっかいなのは、教員はプライドが人一倍高いことだ。そして、そのプライドは傷つきやすい。「良い子」として順調にやってきた人が教員になっている場合が多く、それだけに高いプライドが傷つきやすいのだ。傷ついて、精神疾患をわずらって休職してしまうわけだ。
 休職しないまでも、明らかに精神的を病んでいる教員も多いという。そういう教員は休みがちで、そのシワ寄せが他の教員にいってしまい、ただでさえ忙しいのに、さらに忙しくなってしまう。そしてストレスが溜まることになり、いじめにつながっていく…。

 こんなストレス社会になってしまっている職員室が、実は珍しくない。騒ぎになっている東須磨小学校も、そんなストレス職員室である可能性は高い。
 ストレス職員室の問題を解決しないことには、東須磨小学校のような例は次々に起きてくる。表面化していないだけで、すでに、小さいが無数の教員によるいじめが学校現場では起きているからだ。

 その教員の素顔を、子どもたちは敏感に感じているはずだ。東須磨小学校の場合でも、教員によるいじめの実態を、在校生の子どもがテレビカメラの前で証言したりしているのが、その典型だろう。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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