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施設で育つ「子ども」と施設で子どもを育てる「スタッフ」
~児童養護施設で 育った成人~

児童養護施設で 育った成人

 

■児童一人一人が異なる事情を持つ

 毎年児童養護施設には、さまざまな事情を持った児童が入所します。厚生労働省が今年発表した資料(社会的養育の推進に向けて〈参考資料〉)によると、平成29年度には4591人の児童が入所しています。

 そのほとんどは児童本人が抱える問題ではなく、家庭環境による問題に起因しています。第5章でも触れた父母による虐待をはじめとして、ネグレクト(父母の放任怠惰)、精神障害、養育拒否などが比較的高い割合を占めています。その他にも多様な理由がありますが、それらは家庭が抱える問題のあくまでも一面であり、実に子どもの数だけ事情が存在すると言っても過言ではありません。 

 児童は家庭という本来は最もリラックスして過ごせる環境で、過酷な体験を経て心に傷を負っているケースがほとんどです。そのような状態で施設に暮らす他の児童との関係性を一からつくり、職員とともに新しい生活リズムを構築していかなければなりません。

 

 本人にとって施設での暮らしはどんな体験で、その後の人生にどう関わり、貢献するのでしょうか。

 それを理解するために本章では、かつて施設で生活したことがあり、現在は社会に出て働いている成人男性の方に話を伺いました。その内容を中心に、施設の役割について考えたいと思います。

 話を聞かせてくれた方が施設に入所することになったのは、複雑な家庭環境によって母親による養育が難しくなったためです。家庭での生活では祖父からの虐待に近い扱いがあったそうです。

 アザが複数あるという理由で、学校に児童福祉司が迎えに来たことがきっかけになり、その後母親としっかり話し合い、さらに児童相談所との相談を経て、「別の場所で暮らしながら、母親がお金を貯めて生活の基盤をつくる」という方針が決まりました。姉もいましたがお互い別の施設に預けられることになり、家族が離れ離れになった新しい生活が始まりました。

 母親は「一刻も早く生活の基盤を築いて子どもを迎えに行きたい」という思いが非常に強い方でした。親は子のことを想い、子は親のことを想い、定期的に手紙のやり取りもしていました。

 そして数年を経て、無事に彼らはまた一緒に暮らせることになったのです。

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『インターネット赤ちゃんポストが日本を救う』
著者:阪口 源太(著)えらいてんちょう(著)にしかわたく(イラスト)

 

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親の虐待や育児放棄を理由に国で擁護している約4万5000人の児童のうち、現在約7割が児童養護施設で暮らしています。国連の指針によると児童の成育には家庭が不可欠であり、欧米では児童養護施設への入所よりも養子縁組が主流を占めています。

本書ではNPOとしてインターネット赤ちゃんポストを運営し、子どもの幸せを第一に考えた養子縁組を支援してきた著者が国の制度である特別養子縁組を解説。実親との親子関係を解消し、養親の元で新たな成育環境を獲得することができる特別養子縁組の有効性を、マンガと文章のミックスで検証していきます。

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阪口 源太

さかぐち げんた

NPO法人全国おやこ福祉支援センター代表理事

1976年福井県生まれ。NPO法人全国おやこ福祉支援センター代表理事。自ら創業したIT会社を売却後、東日本大震災をきっかけに社会起業家に転身し、NPOを設立。大阪を拠点として、特別養子縁組のサポートに携わる。著書に「産んでくれたら200万円 -特別養子縁組の真実-」(Kindle版)がある。


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  • 阪口 源太
  • 2019.08.02