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「激痩せ」有名人が突きつける美と命のボーダーライン

有名人たちと『激痩せ』の複雑な事情

【2019年も「激痩せ」で話題になる女優が…】

 いずれにせよ、女性有名人の「激痩せ」は世間をざわつかせる。今年最大の関心事は、女優・浜辺美波のケースだろう。デビュー当時は標準体型だったが、去年の後半から痩せ始め、巨大掲示板などでスレッドが立つほどになった。

 5月31日にテレビ番組『さんまのまんまSP』『全力!脱力タイムズ』に続けて出演した際には、

「病的に細いな。でもめちゃくちゃ可愛い」「透明感ありすぎて透き通りそう」「拒食症だった友達と同じ痩せ方な気がする」

 といったさまざまな声が、ネットのあちこちで飛び交った。CMで共演した有村架純からも「休みをとれているのか」と心配されたという。ただ、最近は少し戻った印象なので、ざわつきはおさまるかもしれない。

 一方、葛藤を自らを告白する人たちもいる。女優の遠野なぎこは13年に過食嘔吐などの経験をカミングアウトした。「思春期で体重が増え始めた私に母が“吐く”という行為を教えた事がきっかけです」(本人のブログより)という話は衝撃的で、彼女はその後も自らの生きづらさについて講演などで語り続けている。

 また、最近では城田優の妹・LINAやゆんころこと小原優花といったモデルたちが拒食時代の経験を明かした。ただ、過去形で語られる場合、ざわつきは少ない。本人のなかでせめぎあいの結論が出ていて、それもだいたい、痩せ<健康、という方向に着地しているからだ。

 その点、現在進行形の激痩せ有名人は見る者にもさまざまな課題を突きつける。ご存知の方も多いだろうが、激痩せは美の問題だけではなく、生き方そのものの問題なのだ。本格的な痩せ姫の口からは「死んでもいいから痩せたい」とか「痩せることで生きづらさを紛らわせる」とか「死に近い場所で生きているような安心感がある」といったことばが語られる。具体的にいえば、性的なトラウマから逃れるため、女性性を消したくて痩せ細るというような事例が見受けられるわけだ。

 もともと、現代人は生物的本能から遠ざかりつつあり、健康への欲以外にさまざまな欲にさいなまれながら、バランスをとっている。その危うさに気づかせるようなものは「不健康」だとして否定しがちなのだ。そんななか、とばっちりを食ったりするのが、激痩せ有名人だろう。

 たとえばかつて、ケイト・モスは座右の銘として、

「どんな食べ物も、痩せている快感にはかなわない(Nothing tastes as good as skinny feels)」

 というプロアナの標語を挙げ、拒食を助長するとしてバッシングされた。そのインタビューでは「どんなに外見がよくても、心がすさんでいてはダメ」などとも語っていて、その前提のもと、モデルとしての気構えを口にしただけなのだが……。彼女自身、アルコールや薬物に依存した時期もあり、激しい葛藤のなかで生きている。そこに思いを馳せれば、彼女もまた生きづらさを抱えるひとりの現代人であることが理解できるはずだ。

 ちなみに、当時のBMIは16台。これに対し、ぽっちゃり系タレントとしてもてはやされる渡辺直美は約40とされる。標準値(18.5~25)からのズレはケイトのほうが小さいわけで、にもかかわらず、もっぱら痩せている側だけが不健康だと批判され、病気の元凶みたいにいわれるのは、よくよく考えれば不公平な話だ。

 おそらくこれは、痩せ=美という価値観がやはり魅力的だからだろう。魅力的だからこそ、達成者への嫉妬やハマりすぎることの不安を覚え、否定したくなるのだと考えられる。

 いったい、どの痩せ方が美しいのか、どこまで痩せれば危険なのか。激痩せ有名人及び痩せ姫は、そんな美や命の価値観、あるいはボーダーラインを鋭く問いかけてくる。リトマス試験紙にも似た、貴重な存在なのである。

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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  • エフ=宝泉薫
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