■「地方」のポテンシャルが開花すれば、多くの問題が解決していく

──今後の展望を教えてください。 

 私は北海道を「日本のシリコンバレー」にしたいと思っています。 
 シリコンバレーの成功要因の一つに、「家賃の安さ」というものが挙げられます。スティーブ・ジョブズは、愛車を売っぱらって手にしたわずか1300ドルの資金でアップルを創業しました。コンピュータの開発には当然時間がかかります。ほとんど無職の男三人が、収入もないままオフィスで何ヶ月もウダウダできる環境こそが「apple」を世に生み出し、マイク・マークラからの出資を勝ち取らせ、事業拡大と株式公開を経て世界有数の大企業を生んだのです。
 
 だから、アップルやグーグルがオフィスを構える、現在のシリコンバレーではイノベーションは生まれません。世界一高い物価と地価水準によって新規の参入障壁が上がりすぎて、曖昧な人間の創意工夫が入り込む余地などどこにもないからです。 

 一方、日本のスタートアップをみてみると、世界の潮流と全く逆のことをしています。渋谷の一等地に綺麗なオフィスを構えるために、出資者から何十億円調達したのかをSNSで競い合って、世界のどこにもニーズのないアプリを作るために命をかけています。
 ニュースアプリやソシャゲ類の暇つぶしアプリは、通勤に平均1日2時間も費やしたり、単身赴任という制度が機能している日本市場でしか需要がありません。

 テナント料を払ったり、来期のB/S(バランスシート)の体裁を整えるためだけの目先の資金集めに奔走しても「イノベーション」や「革命」、「新しい世界」は訪れないと思うのです。 

 もしこれから日本のシリコンバレーができるなら、それは必ず地方都市のいずれかです。決して東京ではない。生活コストの圧縮とチャレンジを受容する社会こそがイノベーションの土壌です。 

 大袈裟なんですけど、僕は「カレー屋が北海道をシリコンバレーにする」と考えています。実店舗による、労働強度の低い現金供給。セーフティネットとしてのコミュニティ。リモートワークによるプロダクトローンチ。 
 別に直接テクノロジーに通ずる必要はなくとも、地場に根を張った人間同士の有機的な連関が、まだ見ぬ社会問題を吸い上げることでしょう。農業・漁業・運送業・小売業への新しいアプローチ、過疎化・高齢化・後継者問題を解決するアイデア、周辺産業と人材の流動化。どんな技術も、地域共同体との連携なくしては実装できません。

 志とモチベーションを共有したメンバーが北海道中でカレーを売れば、北海道はテクノロジー大国になるのではないかと考えているのです。 

 


 札幌に根付き、"地元の名士"としてゲリラ的に実店舗を展開しながら、札幌をシリコンバレーにするという大きな野望を掲げる今井さん。 
 少子高齢化や東京への一極集中、あるいは科学技術立国でなくなっていく日本の中にあって、それらの問題を一挙に解決するかもしれない動きが、小さく、しかし確かに始まっていた。