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なぜ日本の里親委託率はOECD諸国で最低なのか?

虐待や育児放棄に苦しむ現代の子どもたちと「特別親子縁組」という選択肢

 

■即時対応に追われて疲弊する児童相談所

 まず最初に、実親との生活が困難な児童に最初に接する児童相談所をはじめとした、専門機関の対応について考えてみます。彼らのオーバーワークや過酷な労働環境が、里親への委託が十分に進んでいない理由のひとつではないか、という観点です。

 近年ではマスコミやSNSを通じて、先述のような虐待のニュースがより多く、スピーディに伝わることに伴い、児童相談所には案件への早急かつ正確な対応が求められています。職員は次々と届く児童の一時保護依頼や事務作業に日々対応しながら、場合によっては休日や深夜に一時保護を行うケースもあります。案件は家庭によって異なる事情を持ち、個々に応じて繊細なコミュニケーションが欠かせません。キャリアを積むにつれて担当する家庭も増え、遅かれ早かれその負担はキャパシティを超えてしまいます。

 そのような過酷な労働環境に、児童相談所の現場は限られた人数で懸命に対応しています。近年では多大なストレスやバーンアウト(燃え尽き)から、退職する職員も増えているそうです。長年キャリアを積んだ優秀な職員の退職は、現場にとって、また助けを求める子どもたちにとってこれ以上ない損失と言えるでしょう。そういった環境では、手続きに時間を要する養子縁組がなかなか成立しないのは当然とも言えます。労働環境を改善することはもちろんのこと、もう一歩踏み込んだ施策として養子縁組の成立に応じた手当も検討するべきではないかと私は思います。

■新規手当の支給や人員増加による環境改善を

 児童相談所の職員は公務員であり、養子縁組の手続きはあくまでも業務のひとつにすぎません。成立件数によって給与が変わるわけではなく、1件成立させても10件成立させても給与は変わりません。「児童の生活に関わる問題に対して、報酬の増減で働くのは倫理的に許されない」という意見も想定されますが、事実として養子縁組の成立件数は不足しています。子どもの将来的な利益と福祉を考えるならば、何らかのかたちで手当を職員に与え、縁組の成立を促進することも、手段のひとつとして検討するべきではないかと思うのです。

 児童相談所の立場としては、養子縁組を安易に成立させて「失敗」してしまうことを避けたいのでおのずと慎重になっている、という可能性も考えられます。今年の一月に発生した千葉県野田市の虐待死事件でも、父親の児童への家庭内暴力が認識されながらも、児童相談所が強い要求を受けて児童を戻してしまったという経緯がありました。

 問題を起こさないためには、何もしないのがもっとも確実な方法です。それ故に「問題が起きてしまったら嫌だから関わらないようにしよう」というスタンスになってしまっている面がうかがえます。

 そのような状況に対しては、人員の増加によって改善する余地があります。昨年末に政府が児童相談所や市町村の体制・専門性を強化する新しいプランを決定し、保護者の指導や里親支援に当たる児童福祉司を2020人増員する目標が掲げられました。これまでは多大な負担が現場に求められてきましたが、国が介入することで、大きな改善が期待されます。

■リソース不足はNPOにおいても同様

 この人的・予算的リソースが不足している点は、私が運営していたNPOも同様です。全国どこにでもあるようなコンビニとは異なり、知名度が低く、全国に数カ所しかありません。これは国からの金銭的な支援が一切なく、自ら費用を投じてやっている結果であり、NPOがNPOであるゆえの限界です。民間の活動に関しても同様に、営利のロジックを使っていくことで民間から特別養子縁組を支援していくことも可能なのではないかと思っています。

■組織を横断した包括的な取り組みが今後は必要不可

 また、政策面においても改善の余地が大いにあります。政府のコントロールのもとで民間の企業が動くというやり方を取るなら、福祉も進展しやすいものなのです。政府が予算を投じることで状況が改善することは事実です。

 ひとつ実例を挙げましょう。数年前、あるブログに書かれた「保育園落ちた日本死ね」というひと言が話題になり、保育園を取り巻く問題が広く知れ渡りました。その結果、政府も必要性を認識し、補助金を出すなどして改善を図った結果、状況は大分改善されています。まだまだ不十分ではありますが、それでも政策や補助金などの効果を実感できる例です。

 虐待やネグレクトに早急に対応できるシステムを確立するために、今後は児童相談所、国、NPOなどが連携した包括的な体制が必要とされることが予測されます。私たち大人が未来を生きる子どもたちのために、特別養子縁組や養育里親を含めた、多様な選択肢を整えることが急務と言えるでしょう。

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『インターネット赤ちゃんポストが日本を救う』

著者:阪口 源太(著)えらいてんちょう(著)にしかわたく(イラスト)

 

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親の虐待や育児放棄を理由に国で擁護している約4万5000人の児童のうち、現在約7割が児童養護施設で暮らしています。国連の指針によると児童の成育には家庭が不可欠であり、欧米では児童養護施設への入所よりも養子縁組が主流を占めています。

本書ではNPOとしてインターネット赤ちゃんポストを運営し、子どもの幸せを第一に考えた養子縁組を支援してきた著者が国の制度である特別養子縁組を解説。実親との親子関係を解消し、養親の元で新たな成育環境を獲得することができる特別養子縁組の有効性を、マンガと文章のミックスで検証していきます。

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阪口 源太

さかぐち げんた

NPO法人全国おやこ福祉支援センター代表理事

1976年福井県生まれ。NPO法人全国おやこ福祉支援センター代表理事。自ら創業したIT会社を売却後、東日本大震災をきっかけに社会起業家に転身し、NPOを設立。大阪を拠点として、特別養子縁組のサポートに携わる。著書に「産んでくれたら200万円 -特別養子縁組の真実-」(Kindle版)がある。


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インターネット赤ちゃんポストが日本を救う
  • 阪口 源太
  • 2019.08.02