|#03 『長すぎる通路の先には』

 

 最後は飛行機のお話です(鉄道の話を期待された方もおられるかと思いますが、鉄道の怪談は数が多いので別の機会にまとめてお話ししたいと思います)。

 成田空港を夕方に離陸したヨーロッパ路線でのお話です。

 OLのK子さんは学生時代の友人のY子さんと共に南欧の3都市をめぐるツアーで、その飛行機のエコノミークラスに乗っていました。

 シートベルトのサインが消え、ドリンクのサービスがすむと、ほどなく夕食が配られました。せわしないなあと思いつつも、旅の高揚感でそれさえも楽しく感じられるK子さんでした。

 夕食も片づけられた後、アメリカのアニメ映画を見るともなく見ていると、客室の明かりがすっと暗くなりました。あれっと思ってまわりを見渡すと、窓のブラインドはみな閉められており、すでに眠っている人も多いようでした。隣りの席のY子さんもヘッドホンをしたまま寝息をたてています。

「暗くなる前にアナウンスがあるはずなのになあ、聞き逃したのかな? 東京時間だとまだ11時前くらいかな、まだまだ寝ちゃうのもったいないけどなあ」

 そんなことを考えていたK子さんでしたが、夕食の時に飲んだワインのせいか急速に眠くなってきました。

 どれくらい眠ったでしょう、K子さんは便意を感じて目を覚ましました。客室はまだ薄暗いままです。

「今、どの辺を飛んでいるのだろう?」

 飛んでいるのが嘘のように振動はまるでなく、かすかなエンジン音が聞こえなければ地上に留まっているのかと思ってしまうほどでした。ぼんやりとした照明とひんやりとした空気は、上空数千キロというより海中を航行しているという感じがしました。

「すいている今のうちに用を足して、もう少し寝よう」

 K子はそう思い、通路を歩き始めました。しかし、すぐにおかしいことに気づきました。

 通路が長すぎるのです。彼女の席から7~8メートルほど先にトイレはあるはずなのに、その3倍くらい通路は続いており、その先にカーテンが引かれているのです。振り返ってみても同じくらい通路は続いており、やはりカーテンが引かれています。

「おかしいなあ、こんなに長かったかなあ」

 ぼやいていても仕方ないので、K子さんはカーテンのところまで歩いていってみました。ところが、そのカーテンを開けてみると、通路はまだその先に同じくらい長く続いているのでした。

「えぇ~」

 K子さんは小さく叫びましたが、近くに客室乗務員の姿はなく、仕方なくさらに歩いていきました。
 ようやく2番目のカーテンにたどり着き、恐る恐る開けてみると、トイレはすぐそこにありました。

「よかった……」

 ほっとしてK子さんがその扉を開けてみると――

 その中にも通路が続いていました。

「嘘っ!」

 そう叫んでK子さんは目が覚めました。

「なんだ、夢だったのか」

 胸をなで下ろしながら通路に目をやると、7~8メートルほど先にちゃんとトイレがあります。

「ああ、よかった」

 用をすませてK子さんがトイレから出てくると、何か様子が変です。なんだろうと客席を見渡してみると、お客さんが1人もいません。代わりに位牌のような黒いものが一つずつ置かれています。

「Y子!」

 K子さんは急いで自分の席に戻ってみましたが、やはりY子さんの姿もありません。ただ低いエンジン音が単調に響くばかりです。

「Y子!」

 そう叫ぼうとしたところでK子さんは意識を失いました。
 目を開けるとK子さんは病院のベッドの上にいました。まわりには看護婦さんが何人もいて、せっせと彼女の世話をやいています。

「私はどうしたんです?」

 わけがわからずK子さんは誰にともなく尋ねました。

「乗っていた飛行機が墜落したんですよ」

 婦長さんらしい中年の看護婦さんが優しい声で彼女に言いました。
 K子さんはどきっとして婦長さんに聞き返しました。

「Y子は? ほかの乗客たちは?」

「大丈夫ですよ」婦長さんは彼女を落ち着かせようと、肩を叩き、ベッドに寝かしつけながら言いました。「乗客はみんな無事です」

「よかった」

 K子さんは安堵のため息をつきながら言いました。

「奇跡的にみんな助かったんです」婦長さんは言葉を続けました。「死んだのはあなただけです」